誰でも人質

君塚良一の脚本ですごく嫌いなのは「緊張感をセリフだけで無理やり盛り上げる」という部分だ。最悪のクソ映画『恋人はスナイパー 劇場版』は、「日本国民1億3千万人を誘拐する」という設定。どういう事件かというと、犯人が無差別殺人をして「無差別殺人を止めて欲しければ要求に従え」と言ってくる。その時に警察上層部が「これは誘拐事件だ、人質をさらうだけが誘拐ではない」とムチャクチャなことを言うのだ。このセリフで観客は「なんて恐ろしい誘拐事件なんだ!」と思わなきゃいけないんだけど、とてもじゃないけどそうは思えない。思ってくれる映画に優しい観客もいるだろうが、少なくとも俺はガッカリきた。

このプロットは君塚良一の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ! 』でも使われていて、無差別事件が起きると警察上層部が「都民を人質にとられたようなものだ!」と悩みだす。これらのセリフには緊張感を盛り上げると同時に警察上層部の無能さを印象付ける役目がある。ただセリフが仰々しい割には警察がアッサリと対応を諦めているだけなので、緊張感が盛り上がらない。同じプロットの『ダーティー・ハリー』だったらものすごく戦慄する展開なのに。

と、君塚良一批判をしたけれど、中国にフジタの社員が拘束されたのを見ると「中国在留邦人10何万人がいつでも人質に取れるようなものだなぁ」と思ってしまった。そういえば湾岸戦争ではイラク政府がイラク内の民間人を人質にする「人間の盾」作戦をやったよな。世界で起きている事件の物語は君塚良一の脚本よりも酷い。

ちなみに『恋人はスナイパー 劇場版』の主人公は懲役250年の刑を受けて中国の刑務所で服役しているという設定で、中国政府は日本政府の要求を受けて主人公の釈放を決定する。当時の俺はこのシーンを批判するために

どうして中国政府が日本政府の無茶な要求に応じるのかサッパリわからない。

って書いていたけれど、現実の日中関係はまるで逆だった。

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