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電力自由化5年、成熟途上 需給逼迫で価格高騰も

 大手電力が地域ごとに独占していた家庭向け電力小売りが全面自由化されて4月で5年を迎える。参入した新電力会社は700社を超え、料金プランの多様化など一定の成果があった。一方、今年1月には電力需給の逼迫(ひっぱく)から卸電力市場の取引価格が高騰し、破綻する新電力も出るなど課題も浮かぶ。自由化で目指した公正な市場への道のりは途上にある。 (山本諒)

 「年間で1割ほど電気料金が安くなった。契約を変えたのは正解だった」。福岡県宗像市で農業を営む男性(64)は喜ぶ。

 家庭向け小売り自由化が始まった2016年に、当時最も安かった新電力のプランに切り替えた。「電話で相談して申請書を送るだけ。手続きは簡単だった」。妻と一戸建てに住み、九州電力と契約していた頃の料金より今も年間1万~2万円ほど安いという。「選択肢が増えたのが良い。将来、オール電化に改装したらまた契約を見直すつもり」と話す。

 大手電力による地域独占を見直す電力システム改革は3段階で進められ、15年に中立な立場で全国の電力供給を調整する「電力広域的運営推進機関」を設立。16年に電力小売りの全面自由化が実施され、20年4月に大手電力の送配電部門を別会社化する「発送電分離」が行われた。

 電力・ガス取引監視等委員会によると、00年に先行して自由化された大規模工場などの「特別高圧」を含む新電力のシェア(販売電力量ベース)は、昨年末時点で全国では20・0%(前年同月比3・8%増)と上昇傾向が続く。九州は14・2%と全国に比べ低調だが、家庭向けの「低圧」の新電力シェアは微増傾向という。競争を促し、消費者利益を最大限引き出す狙いは一定の成果を生んだ。

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 新電力の参入が急拡大する一方、体力に勝る大手電力との競争も激化。資源エネルギー庁によると、昨年末時点で新電力の事業承継件数は84件、事業廃止解散件数は30件に上る。解散した事業者の中には、一度も小売りをせずに撤退した企業もあったという。ある新電力関係者は「参入の壁は低いが、安定供給に対する責任に欠ける企業がないわけではない」と漏らす。

 今年1月には新電力が電力を調達する卸市場の取引価格高騰で契約者に影響が及び、さらなる選別が進むとの見方もある。

 熊本市の女性派遣社員(46)は「勤務先の1月分の電気代が、昨年12月の5倍になった」と憤る。事務所が入るビルの管理者が、知らない間に新電力の「F-Power」(エフパワー、東京)に契約を切り替え。電気代が卸市場に連動する特殊なプランを採用しており影響を受けた。同じビルには「電気代が150万円を超えるテナントもあった」という。

 エフパワーは経営に行き詰まり、今月24日に会社更生手続きの開始を東京地裁に申し立てた。

 新電力の多くは投資負担が大きい発電所を持たないため、大手電力より割安な料金を提供できる。半面、電力調達の大部分を頼る卸市場には価格変動リスクもついて回る。

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 新電力の自然電力(福岡市)も卸市場価格高騰で打撃を受けた。同社はホームページなどで顧客に他電力への切り替えを提案。昨年12月末時点で1万2千件あった契約者数は、3300件(3月末見込み)まで減少した。

 電力小売り以外に、再生可能エネルギー発電所の運営や、電力コンサルティングなどを展開しており、金融機関からの融資などで難局を乗り切る考えだ。未来創造室エキスパートの川島悟一氏は「多くの新電力で経営モデルやリスク管理の課題が浮き彫りになった」と振り返った。

 ただ、「これで新電力の存在自体が否定されるわけではない」とも強調する。「自由化前は固定的な料金体系で、生活様式の変化に対応できていない面もあった。小回りが利く利点を生かし、電力の地産地消などに目を配りつつ、電力システムを変えるため、需給調整などの分野では部分的に大手電力と組むのも手段」と次の一手を見据える。

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