タイアップ曲だけじゃない！
Official髭男dismの“隠れた名曲”紹介

「隠れた名曲を中心に～」と言いつつ、まずはつかみとして大人気曲からご紹介。大ブレイク前夜の2018年10月に発表された「Stand By You EP」から、表題曲の「Stand By You」です。繰り返される跳ねるようなピアノフレーズと細かく刻まれるリズムが気持ちいい楽曲ですが、一度聴いたら忘れないくらい印象的なサビのコーラスが特に素晴らしい。ライブでも高い支持を受けていて、ファンによる高速のハンドクラップと「オーオオオー」という大合唱で会場が1つになる瞬間は毎回鳥肌モノ。サビが2段階用意されているという、従来のポップソングの常識と異なるところもクセになるポイントの1つです。もしかすると数あるヒゲダン楽曲の中で、「Stand By You」は最も“沼”に引きずり込む力が強い1曲かもしれません。

知らないアーティストの曲を聴くときは、シングル曲やミュージックビデオになっている曲を聴いてしまいがちですが、それだけだとヒゲダンの名曲は拾いきれません。次にオススメしたいのは、2018年4月にリリースされたアルバム「エスカパレード」に収録されている「Driver」。「Stand By You」よりもアップテンポな、王道のピアノロックナンバーです。疾走感あふれる豪快なバンドサウンドに冒頭から圧倒されますが、そんな迫力ある演奏に負けないのが藤原の紡ぎ出すメロディ。Aメロからいきなり口ずさみたくなるぐらいキャッチーで、突き抜けるようなサビの爽快さは特にたまりません。これを聴いて心が躍らないJ-POPリスナーなんているんでしょうか。タイトル通り、ドライブにピッタリだし、みんなで大合唱したくなる名曲。これがシングル曲じゃないなんて驚きです。

切ない名バラード「相思相愛」は、アルバム「エスカパレード」では前述の「Driver」に続く11曲目に位置します。大ヒットアルバム「Traveler」と同様、このアルバムも名曲だらけ。「相思相愛」というタイトルだけを見ると恋が成就した曲のように思えますが、実はその逆。「最低でクズな男になった気分はどうだい？」という自らへの辛辣な問いかけで始まる別れの歌なんです。サビでは「相思相愛じゃない」「疑う余地もなく愛はない」と歌われるくらい。大人だからこそ簡単に割り切れない、情けない恋愛が歌われています。男性視点で描かれているけど、女性が聴いてもズキズキと胸にくるはず。恋に破れた直後に聴くのはツラいですが、いい曲だからつい聴いてしまう魅力を持った名曲です。

ヒゲダンの名バラードは恋愛ソングだけではありません。今年8月にリリースされた最新作「HELLO EP」に収められている「夏模様の猫」も素晴らしいバラードです。約2分の曲で歌詞も非常に短いのですが、夏の明け方の風景を柔らかく切り取る描写に胸をグッとつかまれます。少ない言葉でリスナーの想像の羽を広げさせるのが藤原の歌詞のすごいところ。実はこの曲、まだ彼らが山陰地方で活動していた頃に作ったものをレコーディングし直した曲で、このことからもヒゲダンが結成当初から名曲を生み出し続けてきたことがよくわかります。ピアノ1本による弾き語りという潔さもポイントが高い。

正直、ヒゲダンの名曲は今回挙げた5曲に限らずたくさんあるのですが、最後はこの曲を紹介して締めたいと思います。最新アルバム「Traveler」収録の「旅は道連れ」です。ヒゲダンは藤原の存在が目立っているように見えますが、このバンドのメンバーは全員が優れたミュージシャンで、数々の名曲は4人のアイデアを結集して作り上げられています。これはベースの楢﨑が作詞作曲を手がけており、メンバー全員が順々にメインボーカルを担当するナンバー。楢﨑はこの曲でサックスの演奏も担当しています。上記の4曲と違って、ほんわかとした牧歌的な雰囲気が魅力的な曲で、ヒゲダンの懐の深さが感じられる名曲だと思います。