焦点:半導体不足で世界自動車生産に黄信号、米対中制裁が裏目

焦点:半導体不足で世界自動車生産に黄信号、米対中制裁が裏目
 1月15日、世界的な半導体不足により、各国の自動車メーカーが組み立てラインの休止を余儀なくされている。写真は2016年9月、ケンタッキー州ルイビルのフォード工場で撮影(2021年 ロイター/Bryan Woolston)
[15日 ロイター] - 世界的な半導体不足により、各国の自動車メーカーが組み立てラインの休止を余儀なくされている。トランプ米政権による中国の主要半導体企業に対する制裁が、不足に拍車をかけているケースもある。
ほとんどの自動車企業にとって、半導体の不足は予想外の事態だった。現在、フォード・モーター、SUBARU(スバル)、トヨタ自動車が米国での生産を抑制している。
その他の市場でも、フォルクスワーゲン、日産自動車、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)などに半導体不足の影響が及んでいる。
半導体不足の原因は複合的だ。自動車メーカーは、拡大する消費者向け電子製品業界との間で半導体を奪い合っている。コロナ禍の間に消費者はラップトップやゲーム機器などの電子製品を買い込み、昨年1年間を通じて半導体供給の逼迫を招いた。
一方、自動車の販売も昨春時点の業界予想を上回り、半導体供給への負荷がさらに強まった。
中国への技術移転阻止を狙うトランプ米大統領の政策が、半導体不足の原因となっているケースが少なくとも1つある。
ある自動車メーカーは、半導体生産の委託先を米国が昨年12月に制裁対象とした中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)から台湾積体電路製造(TSMC)に移した。
しかし、この問題に詳しい関係者がロイターに明らかにしたところでは、TSMCには注文が殺到し、さばき切れていない。
ある自動車部品サプライヤーは、TSMCの生産が需要に追い付いていないことを確認。幹部は「この危機はシステム全体に及んでいる側面があり、頭が痛い。代替部品が見つかり、TSMCに頼る必要がなくなると思ったのもつかの間、そのシリコンウェハーのメーカーに生産余力が残っていないのが分かるケースもある」と述べた。
TSMCとSMICにコメントを求めたが、今のところ回答はない。
TSMCのシーシー・ウェイ最高経営責任者(CEO)は、14日の投資家向け電話会議で「成熟した技術」によって製造された自動車用半導体が不足しており、そのインパクトを和らげるべく顧客と取り組んでいると説明した。
最も微細な半導体が不足しただけで、自動車生産は止まってしまう。フォードは、SUV(スポーツ用多目的車)「エスケープ」のブレーキシステムに使われる半導体が不足したため、ケンタッキー州にある工場の稼働を休止した。この工場の労働組合幹部が明らかにした。
フォードは「フォーカス」を生産するドイツのザールルイの工場でも、半導体不足を理由に来週から1カ月間休止する。
状況がすぐに改善する可能性は小さい。ラップトップ用であれ高級車用であれ、全ての半導体はシリコンウェハーを約90日かけて処理して生産されるからだ。
半導体業界はこれまでも、需要が急増するたびに対応に苦慮してきた。ウェハー製造工場の建設には数百億ドルを要し、生産能力を拡大しようとすれば、複雑な道具の試験や適格性審査に1年かかることもある。
半導体メーカー、グローバルファウンドリーズの幹部、マイク・ホーガン氏は「要するにこういうことだ。需要は約50%増えている。そして、われわれのような資産集約型の業界が、生産能力を50%も遊ばせているはずはない」
<ファーウェイ制裁の影響>
生産能力の逼迫と需要の急増により、半導体メーカーはトランプ政権の政策がもたらす2つのショックを吸収しにくくなっている。
第1に、米政権は9月、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対し、米国の技術で作られた半導体の購入を禁じた。ファーウェイは制裁中も製品製造を続けられるよう、前もって半導体の在庫を積み増した。そしてアナリストによると、ファーウェイから市場シェアを奪うチャンスと踏んだ競合他社も、半導体を買い漁り始めた。
第2に、米政権はSMICによる米国の半導体製造技術の利用を一部禁止。これにより、少なくとも一部のSMIC顧客は生産に支障が出ると案じて、他の半導体メーカーを探し始めた。
米国が制裁対象を拡大する可能性もあるため「中国の半導体工場を利用することへの恐れがある」と業界幹部は語る。
<不足は6カ月間継続も>
米商務省の報道官は、制裁による自動車業界への影響についてコメントを控えたが「米国の国家安全保障、経済安全保障、外交上の利益を守る」ことが最優先だとした。
アナリストは、自動車用半導体の不足が最長6カ月間続く可能性があると予想している。オートフォーキャスト・ソリューションズの報告書によると、世界の自動車生産台数は13日時点で既に推計20万2000台落ち込んでいる。
自動車メーカーとサプライヤーの幹部らは、利益率の高い車種用の半導体を確保するため、生産調整を行っていると説明する。取引相手の半導体サプライヤーを増やすことや、将来的に在庫水準を引き上げることも検討中だ。
ある自動車業界幹部は「朝から晩まで四次元チェスをやっているようなものだ」と話した。
(Ben Klayman記者、Stephen Nellis記者)

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