心を動かすオフィスとは?乃村工藝社に学ぶ「エモーショナルデザイン」のヒント

Browse By

Sponsored by 株式会社乃村工藝社

フロアの中心に天井から大きなスギ・ヒノキの葉のオブジェが吊られている。そのすぐ下には、様々な種類の木の板が組み合わさったテーブル。そして窓際には山から伐採し、そのまま持ってきた木の幹が数本立っている。

スギ・ヒノキの葉のオブジェが吊られたエリア

角材、板材、木塊、原木、円柱などの無垢材や集成材、合板などいわば加工前の木材が配置されているこちらの空間は、2021年にオープンした乃村工藝社のオフィスだ。

オフィスにはほかにも誰もが自由に使える公園のような場所や、あえて仕切りを取り払った「魅せる」会議室など、さまざまなコンセプトのフロアが混在。また、オフィス内に漫画やすごろくテーブルなどが配置されたスペースが設けられているなど「遊ぶ」と「働く」がごちゃ混ぜになったような雰囲気が印象的である。

公園のような場所

130年の歴史を持つ老舗企業・乃村工藝社は、新オフィスを手がけた2021年、全グループを巻き込んで、新たに「ソーシャルグッド」をキーワードに掲げ歩みだした。

「空間を作ったり活性化したり……乃村工藝社の持つアイデアやエンジニアリングの力で、仕事を通して課題解決をしていくことが乃村工藝社のソーシャルグッドです。乃村工藝社の経営理念は『我々は人間尊重に立脚し新しい価値の創造によって豊かな人間環境づくりに貢献する』というものです。この経営理念はソーシャルグッドに紐づく精神であるのと同時に、私たち社員はソーシャルグッドなDNAをもっています。」

そう語るのは、同社のソーシャルグッド戦略部に所属する井部玲子さんだ。実は、新オフィスの随所に社員のソーシャルグッドに対する意識醸成を狙いとした設計が施されているのだという。

乃村工藝社の目指すソーシャルグッドを全社に浸透させるためにどのような「デザイン」を施したのか、お話を伺った。

井部 玲子 氏
株式会社乃村工藝社 ビジネスプロデュース本部 ソーシャルグッド戦略部 主任


2005年入社。入社以来、企業PR施設や各種イベント等の空間づくり・活性化事業を担当。2015年からは子どもと過ごす空間をテーマにした調査企画等の活動にも従事。2021年、現部署発足時より「ソーシャルグッド」をテーマに社内施策の企画実行や社外の方と連携したプロジェクト開発に携わる。

オフィスのエモーショナルデザインを通じた社員の意識改革

「空間」をつくりだし、目的に応じて空間を活かすことを得意とする乃村工藝社。商業施設、ホテル、オフィスだけでなく、博物館や美術館、ショールームなどのさまざまな空間の総合プロデュース企業として、全国に9つの拠点を展開し、プランナー、デザイナー、プロダクトディレクターなどの専門職が在籍している。

2,000人規模のグループ全体でソーシャルグッドを推進するのは容易なことではない。どのようにして社員に共通認識を持たせ、事業へと反映させているのだろうか。

「一人ひとりが日々の業務のなかでソーシャルグッドに取り組むためにはトップダウンで動くのではなく、自分で考えて実行する『情熱』と『知恵』と『行動力』が大切だと考えています。それを導くきっかけを与えるためにソーシャルグッド戦略部では、SDGs『18番目』の目標として『クリエイティブで人の心にSwitchを』という意識を持っているんです。」

ここで人々の心に情熱・知恵・行動力を引き出すSwitchを入れるための鍵となるのが、「エモーショナルデザイン(感情をデザインすること)」だ。同社が得意とする空間づくりを通じて人々の心を動かし、歓びと感動に繋がる仕組みを創り上げるノウハウをこのオフィスでも活用した。

空間は人々の心を揺さぶる効果をもたらす。そこで、冒頭で紹介したオフィスにも、「Switchをいれるエモーショナルデザイン」を採用。オフィスを利用する社員から自然とソーシャルグッドなアイデアが触発されるようなきっかけを設けている。

オフィスのユニークポイント3つ

気分を変えて仕事に取り組む居場所を選ぶことができ、快適に過ごせるオフィス。しかし、この空間は単なる仕事場であるだけでなく、訪れる人に学びや気づきをもたらすよう設計されているのだ。

ここでは、そんなエモーショナルデザインを取り入れた、乃村工藝社オフィスのユニークポイントを紹介する。

1. あえて魅せ、コミュニケーションを活発にさせる会議室

会議室の「窓」の切り取り方を工夫することで外からと中からの見え方に変化を持たせた、個性的な会議室。会議室の使い方を「熟考」「議論」「セッション」の3つに分けて設計することで目的にあったコミュニケーションを活性化させるデザインに。

使い方によって部屋を選べる会議室

2. 自分よりユニークな人を推薦。仲間をもっと知るブース

グループ各社の拠点を集約した当オフィスにて、社員同士の距離を近づけるためにリアルで接点を持てる場を創出。部署や会社の枠を超えて「自分よりユニークな人」を指名しリレー形式で社員を紹介し、そこへ訪れれば本人に直接会える場所に。

ユニークピーポーセクション

3. 木を丸ごと活用し、自然からインスピレーションを得るエリア

様々なエリアのなかでも、社員たちに特に大きな気づきを与えているのがこのエリアだ。

こちらは、フェアウッドの中でも伐期を迎えている国産材のスギ・ヒノキを積極的に活用しながら、ひとつひとつの木目や色見の表情を活かした空間と家具がデザインされたエリア。山に生えている状態の段階から木に触れ、それらが木材へと変わっていくプロセスを理解することで材料の魅力をより生かしたデザインができるのかもしれない──そんな仮説から、木や山の「質感や変化」を感じることができる空間がつくられている。

遊ぶと働くがごちゃまぜになったフロア

木材が製材され製品化されるまでには乾燥という工程が必要だ。天然乾燥の場合、半年から1年もの期間が必要になる。そこで、乃村工藝社ではオフィスの空間を使って天然乾燥を行うことにした。通常ならば、乾燥の間は製材所に置かれているだけの木材を、窓際のベンチとして活用。乾燥が完了した木材は製材所に戻り、主に柱材として使用され、新たに伐採したての湿った木材と交換される。

木材入れ替えの様子

木材入れ替えの様子

他にも、燃やされたり、山に置き去りにされたりして今まで有効に活用されていなかった黒芯のスギや柱材の端部などもベンチの座面やローテーブル、スツールの土台として活かされている。

ベンチに活用された木材

 

実際に見て触れる場があることで、社員の意識にも変化が

2021年にオフィスがオープンして以来、果たして実験的な取り組みは効果があったのだろうか。

「我々社員は仕事柄、サンプルを見たり触れたりすることが好きなので、とても効果的でした。実際に木のテーブルやベンチに触れたり、実物の木がある空間で仕事や打ち合わせをしたりすることで、これまで頭で理解していた『フェアウッドや国産材を使うと良い』といった知識が実感を伴うように。社員の意識にSwitchが入ったようです。

これまでは与件がある時に提案していたソーシャルグッドなアイデアを、自分たちで先方の期待を上回る提案を常に出したいと考えるようになりました。また、木材に限らず積極的に環境に配慮した提案をするケースも増えてきましたね。」

話し合っている様子

2021年度に行われたオフィス空間における働き方の満足度調査では、リニューアル前の2020年度と比較し、「働く場所が選べる」「リラックス・休憩できる」「新しい学びがある」 等の項目でリニューアル前よりも満足度が上がったという結果もアンケートに出ている。さらに、ソーシャルグッドの意識醸成の場として機能したことにより、社内からソーシャルグッド関連の問い合わせ件数が約80件に急増したのだという。

「今までは製材や、完成した家具の状態で見ることがほとんどでしたが、材木が乾燥していく工程を目で見ることができたり、さまざまな表情の木材に日常的に触れイマジネーションが広がったりしたことで、狙い通り社員たちのトレーサビリティの考え方が深まったようです。」

また、木材以外にも、自分たちが扱うものや素材がどこで生産され、どのように顧客の手に渡るのか、それらを見える化し、証明することの重要性も意識づけられたといった意見もあった。

新たに取り入れたコンセプトを全社員に浸透させるための工夫

社員の意識を変えるに留まらず、プロジェクトベースでソーシャルグッドを推進するには、井部さんが所属するソーシャルグッド戦略部の存在も大きい。社員の抱える課題に寄り添い、臨機応変にサポートをしているのだという。

「ソーシャルグッド戦略部では社員からの要望に合わせてブレストや案出し、類似事例の共有や提案のサポート、そして協力者や知見のある方をお繋ぎするなどとあらゆる方法で案件の中にもソーシャルグッドを反映させやすいよう支援をしています。」

2021年7月と2022年1月には社員とクライアント向けの「ソーシャルグッドウィーク」を企画し、トークセッションやアイテムの展示を通じてソーシャルグッドにまつわる社内外の好事例をインプットする機会を創り出した。

ソーシャルグッドなアイテムの展示

ソーシャルグッドなアイテムの展示

さらにはセールスツールや資料を用意し、社員が必要な時に応じて顧客に提示し説明しやすい仕組みをつくり、インプットとアウトプットができる循環をつくりだしていた。こうした基盤があったからこそ、スピーディーに全社へソーシャルグッドを浸透させ、案件に活かすことができている。

「支店の社員にも届きやすいオンラインでの発信や、役員の方にも自分の言葉でソーシャルグッドについて説明できるよう丁寧なコミュニケーションを心がけるなど、社員全員がインクルーシブに進んでいくことを大切にしています。」

いつかはソーシャルグッドをあたりまえに

今後、全社でソーシャルグッドを推進していくうえで乃村工藝社は、いままでと同じように顧客の事業を通してソーシャルグッドを進めるだけでなく、新たに自社事業としても展開する予定だ。社外の組織と共創しながら新しい仕組みと繋がりをつくり出し、社会貢献に繋がる自社事業を目指す。

「一例として、社員一人ひとりのソーシャルグッドに関する意識を高め、新しい価値の創造に挑戦するマインドを育んでいくことを目的に、ソーシャルグッドな事業アイディアを社内で募集する『ソーシャルグッドチャレンジ』を実施しました。そこで提案されたアイデアをもとに、R&D活動をスタートしたところです。社員が自ら考え、サステナブルな未来に向けてソーシャルグッドアクションを起こすきっかけとなり、社会課題解決型の新規事業にもつなげることで、新たな価値を社会に提供したいと考えています。」

乃村工藝社では2025年には全ての事業活動でソーシャルグッドが取り組まれていること、そして2030年には、ソーシャルグッドという言葉がなくなり、当たり前になっていることを目指し、その目標に向かって日々着々と歩みを進めている。

東京駅八重洲北口コンコース・専門店街「東京ギフトパレット」

東京駅八重洲北口コンコース・専門店街「東京ギフトパレット」 700系新幹線の車体に使用していたアルミニウムをアップサイクルして使用

街中で見かける、思わず息を飲む空間。そんな空間には乃村工藝社が携わっているものが多々あるだろう。空間を演出するということは、どんな素材を活用し、その場所にどんな機能を持たせるかだけでなく、利用する人にそこでどんな時間を過ごし、どんな感情になってほしいのかなど、ハードだけではないソフト面の配慮も重要だ。

だからこそ、空間デザインを通じた社会課題の解決は意義深い。これからも乃村工藝社が築いてきた100年以上の歴史を紡ぎ、得意とするエモーショナルデザインを用いながらも新たなデザインやテクノロジーの力を駆使し、社会により良い変革をもたらしてくれるだろう。

FacebookTwitter