久しぶりに重なった休み。惰眠もそこそこにベッドを抜け出し、溜め込んだ洗濯物を洗濯機に押し込んだ。
回り始めた洗濯機の脇、洗面台の上にカヅキを載せて、やるべきことをそれなりにヤった。溜め込んでいた
あれこれをお互いにスッキリさせたところで、『なんかうまいもん食いたい』とカヅキが鳴いた。
 ざっとシャワーを浴びて、適当な恰好で家を出る。駅へ向かう道すがら、ゴウンゴウンと唸る洗濯機に合わ
せて上がる嬌声はなかなか趣深かった、などと考えていたら、カヅキにケツをはたかれた。ときどき不安に
なるんだが、こいつもしかしてエスパーか?
 『なんかうまいもん』と言えば肉だって相場が決まっている。案の定カヅキもそのつもりだったようで、特に
打ち合わせもなく目的の店に辿り着いた。このメキシコ料理屋は最近見つけた店で、二人共結構ハマって
いる。食べたいものを片っ端から注文し、会話もなくワカモレを貪っていたところでお目当てが運ばれてきた。
目を輝かせて鉄板の上を見つめるカヅキは、フランベされるのを今か今かと待ち構えている。
「バッ」
「バーニン禁止」
「えっ!? あっ、あー!! ……バーニン」
 小さくなる炎に比例するように、意気消沈した声色でお決まりのフレーズを言うもんだから、いよいよ我慢
できずに声を出して笑ってしまった。本当に鳴き声なのかもしれない。
「ね、待って。写真撮る」
 トルティーヤに溢れんばかりに具材を巻いて頬張っていたら、おもむろにカヅキが携帯を出した。珍しい。
更新が少ないと昨日速水に怒られたのだと言いながら、手元の皿を撮る。その画像が俺の眼前に突き出
された。可もなく不可もない。何も言わず、ひとつだけ頷いてみせると、カヅキは満足そうに笑った。SNSが
あまり得意ではないのか、こいつの投稿はときどきとんでもない個人情報が載っていたりするから注意が
必要なのだ。――とはいえ。
 同じようにSNSのアプリを立ち上げ、今さっき撮った写真を投稿し、すぐに食事に戻る。トルティーヤの
おかわりを頼んだところで、カヅキが唸り始める。
「ちょ、お前!コレ!」
 カヅキの投稿から五分後。同じ柄の皿が写った、炎が上がるファヒータの写真を投稿しただけだ。
「いっつも写り込みに気を付けろってうるさいのアレクだろー?」
 たまにはいいんだよ。牽制だ、牽制。なんだかんだと文句言うくせに、口元がニヤケているから説得力
がない。その腑抜けた面も撮ってやったら、俺の皿から肉が一切れ奪われた。



20190428 tailleur/立花そう








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