脱炭素社会の切り札となるか――水素エネルギー活用の最前線を巡る(1/3 ページ)

脱炭素社会の実現に向けて、大きな期待が寄せられる水素。そもそも水素が、なぜ脱炭素社会に役立つのか。水素に関する研究は、どこまで進んでいるのか。水素研究の先進地、山梨県を訪ねた。

» 2021年01月25日 07時00分 公開
[廣町公則スマートジャパン]

 2020年12月25日、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表された。2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするという菅政権の方針を受けて、経済産業省ほか関係省庁が連携して策定したものだ。地球温暖化への対応を、制約やコストと考えるのではなく成長の機会と捉え、経済と環境の好循環を作っていく産業政策=グリーン成長戦略として取り組んでいくという。

 このグリーン成長戦略において、蓄電池や洋上風力などとともに、重要分野と位置づけられているのが水素だ。インフラ整備やコスト低減、供給量・需要量の拡大を促し、水素産業の創出を図っていく。カーボンフリー電源としての水素エネルギーを評価し、水素を活用すればインセンティブを受け取れるよう電力市場を整備していくとの考えも示された。

グリーン成長戦略における水素産業の展望 出典:経済産業省

山梨県に、なぜ世界有数の水素研究機関が集積するのか?

 改めて注目を集めはじめた水素だが、日本における水素研究の歴史は古い。なかでも山梨大学は、40年以上にわたり水素エネルギーに関する研究を続けており、世界トップレベルの実績を有している。同大学が呼び水となり、今日、山梨県には水素エネルギーに関する研究実証施設が多数集まっている。また同県は、産官学連携により、早くから水素産業の育成に努めていることでも知られる。

水素への取り組みについて語る、山梨県知事の長崎幸太郎氏

 2020年11月、県主催による「山梨県 水素研究機関プレスツアー」が開催された。水素に関する先進の取り組みを県内外にアピールしようとするもので、山梨大学燃料電池ナノ材料研究センター、水素供給利用技術協会(HySUT)水素技術センター、米倉山電力貯蔵技術研究サイトなどが紹介された。

 施設巡りに先立って挨拶に立った山梨県知事の長崎幸太郎氏は、「山梨県における取り組みの特長は、水素関連の研究開発拠点がフルラインアップで集積しており、県内にある機関だけで、水素エネルギーの製造から利用までのサプライチェーン構築が可能なところにある」と述べている。そして、サプライチェーン構築の取り組みは、すでに実証段階にきていることが、最後に案内された施設で明らかにされた(後述)。

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