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パンデミックに挑む

麻黄湯がインフルエンザ治療の新たな選択肢に
順天堂大学医学部総合診療科准教授・内藤俊夫氏に聞く

順天堂大学医学部総合診療科准教授の内藤俊夫氏

 インフルエンザに保険適用のある麻黄湯タミフルリレンザなどの抗ウイルス薬とは異なり、抗ウイルス作用に加えて宿主側の免疫応答を調整することでも効果を発揮するという。順天堂大学医学部総合診療科准教授の内藤俊夫氏らは、ランダム化比較試験で麻黄湯はタミフルなどと同等の効果があるとの成績を得ている。内藤氏に、インフルエンザ治療における麻黄湯の可能性について聞いた。

―― 先生方はなぜ、麻黄湯によるインフルエンザ治療に取り組むようになったのですか。

内藤 従来、インフルエンザに対しては、ワクチンによる予防、解熱剤による対処療法、さらに抗ウイルス薬による治療が一般的です。しかし、抗ウイルス薬、たとえばタミフルについては、乱用や副作用が指摘されるようになりました。特に、耐性ウイルスの問題は大きな課題となっています。こうした反省にたって、抗ウイルス薬以外の治療法を検討していたのです。

―― 検討の結果、たどり着いたのが麻黄湯だったわけですか。

内藤 漢方薬もかぜ症候群やインフルエンザ治療の候補の1つなのです(図1)。現在、インフルエンザ(流感)の保険適応があるのは、麻黄湯、柴胡桂枝湯、竹茹湯胆湯の3つがあります。それぞれ患者さんの病態や進行状況に応じて、使い分けることができるようになっています。

図1 漢方薬のかぜ症候群に対する作用(松田邦夫監修「かぜ症候群の漢方治療ABC」をもとに改変引用)

―― 麻黄湯の抗ウイルス作用については、どこまで明らかになっているのでしょうか。

内藤 麻黄湯の成分である桂皮には、ウイルス感染に対して濃度依存性に抑制効果を示すことが報告されています。また麻黄湯の成分のうち、桂皮と麻黄にはサイトカインの産生抑制の効果が確認されていますし、杏仁と甘草には免疫賦活作用があることが報告されています。

―― 図1をみると、麻黄湯は急性期の治療薬として位置づけられています。タミフルやリレンザなどの抗ウイルス薬とは、効果に違いがあるのでしょうか。

内藤 小児においては、主として副作用が少ないことや安価であることなどから、インフルエンザ治療に麻黄湯がよく使われています。ご存知のように、インフルエンザの患者さんが苦痛に感じるのは全身症状なわけですが、小児の領域では、こうした症状改善に漢方薬が有効である可能性が示唆されています。そこで私たちは、成人において、麻黄湯の効果を検討しました。

―― 詳しく教えてください。

内藤 対象は、2008年の11月から2009年の3月までに当科を受診して、鼻咽頭ぬぐい液のインフルエンザ迅速診断キットでインフルエンザA抗原が陽性と分かった人(20歳以上)です。試験に対する同意が得られた45人を対象に、無作為化し、麻黄湯(ツムラ麻黄湯エキス顆粒[TJ-27])投与群(22人)と非投与群(23人)に分けて比較検討しました。

―― 麻黄湯非投与群は、抗ウイルス薬の治療を受けていたのでしょうか。

内藤 全例が受けていました。ですから、麻黄湯(単独、あるいは抗ウイルス薬と併用)の麻黄湯投与群と抗ウイルス薬だけの麻黄湯非投与群の2群間で比較検討したことになります。

 評価項目は、体温(有熱時間)、関節痛、筋肉痛、頭痛、咳、倦怠感としました。患者さんにそれぞれの評価項目ごとに、なし(0点)、少し(1点)、中程度(2点)、かなり(3点)、極めて(4点)の5段階で評価してもらいスコア化しました。受診後5日間のデータを記録したハガキを郵送してもらい、解析しました。ハガキによる回答が得られなかった8人(各群4人)を除き、最終的に麻黄湯投与群18人、非投与群19人を対象に解析しました。

―― 2群間で患者背景に差はなかったのですね。

内藤 割り付け時点で、年齢、受診時発熱、有熱時間などに有意差は認めませんでした。

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