風土を育み未来につなぐ、本来の「観光」へ  ~霊峰御嶽山からはじまる、温故知新の地域再生プロジェクト

本来の「観光」への原点回帰、そこからつながる、地域の未来

中央アルプス木曽駒ケ岳より 雲海に浮かぶ霊山、御嶽山

この度、日本有数の霊山、木曽御嶽山において、環境再生プロジェクトをスタートいたします。

このプロジェクトは、単に木曽御嶽山の古道をはじめ環境全体を再生するという、地域的な観光資源としての霊山名所の中興にとどまるものではありません。

この取り組みを通して、現代社会が置き忘れてしまった大切なものを再発見し、そして全国の多くの地域が抱える問題に対して、本来の視点から未来を拓く道しるべとなる、そんな再生の在り方を示していければと思います。

御嶽神社里宮(2019年10月)

美しく魅力あふれる風土の歴史と文化は、その土地の自然環境と一体のものとして育まれてきました。

代々の暮らしの中で、いのちの恵みをもたらしてくれる自然を敬い、守り育てるたくさんの智慧が文化や信仰を育み、それがまた人を育て、土地の魅力を今につないできたのです。

 旅先の魅力、それは、素朴に敬虔に土地に向かい合ってきた何気ない営みの中で生まれるもので、美しさも心打たれるものも本来、そこにあります。  自然とともにあった営みの名残は、現代に続く「観光地」や、名もなき地域に必ず存在する歴史の名残の背景に必ず見いだせるものです。

王滝口からの行者道沿いの霊神碑。御嶽山には2万基の霊神碑が現存する。

「観光」という言葉は本来、中国・古代の書物『易経』の言葉で「国の光を観る」と言う語源に発しております。

本来、何かを探し求めて人は旅に出ます。そして、たどり着いた土地の営みに、自分の故郷にない素晴らしいものを発見し、その魅力に打たれる。そしてそんな旅人の感銘を見て、その土地で暮らす人々は、自分の国の良さ(光)に改めて気づき、それが故郷の誇りと郷土愛へと還元されてきました。

そして、旅人もまた、旅先から生まれ故郷に帰り、旅先で見た様々な人の息吹を持ち帰りつつも、自分の土地独特の大切なものに改めて気づく、それが本来の「観光」というものであったのです。

その「観光」が、過去の営みや大切なものを踏みつけるものであっては、過去に申し訳が立たず、そして未来に伝えるべき魅力を減じてしまえば、それは歴史において現代の過ちというべきものかもしれません

 歴史が繋いできた魅力とは何か、それは本当にはかなく、現代は握りつぶされていくように消えていきます。その果てに、どこも同じような観光施設、同じような特徴のない、殺風景で人の息吹を感じない街や観光地が量産されます。 

 そんな時代の弊害に今、多くの人が気づき始めていることでしょう。

これからますます、本来の「観光」の意味合いに原点回帰し、地域それぞれの魅力を大切に、未来に価値を繋いでゆくことが大切だと感じます。

普寛行者によって開かれた王滝口登拝道沿いの行場、新滝(2020.7撮影)

予算をかけた現代の観光開発によって、自然環境がよりよくなった例はほとんど聞かず、今のやり方では少なからず環境を不可逆的に変えてしまいます。

土地の文化も魅力も本来、豊かな自然環境と、それを享受しつつ土地を傷めずに育んできた古来の営みによって生まれ、現代へとつながれてきました。

地域の未来のために失ってはいけないものはそんなところにあるのでしょう。

現代の営みが環境を育み、そこでの営みから生まれる暮らしと文化を持続して美しく調和してゆくものかどうか、そこを一つの基準に知恵を絞り、地域の魅力を育てていくことこそが、その価値を現代に生かし、そして未来を拓くものとなるのではないでしょうか。

御嶽山再生プロジェクトを通してお伝えしたいこと

夕日に浮かぶ御嶽山のシルエット(中央アルプスより)

これからはじまる御嶽古道の再生は、名もなき地元の方々の強い要望と奉仕によって実現する運びとなりました。

そして御嶽山麓の自治体である王滝村と木曽町の後援および、木曽おんたけ観光局の協力の下で、これから始めていきます。

私自身、この歴史ある素晴らしい土地にご縁を受けて、これからのライフワークの一つとして続けてゆく所存です。

美しい日本の風土再生につなげてゆくためにも、全身全霊で尽力してまいりますので、どうか多くの方のご参加、ご協力、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

8月10日に配信する御嶽古道再生オンラインセミナーをスタートに、秋から御岳山の再生を始めます。

その後、現地で多くの方々とともに、古道の再生を通して土地に向かい合う意味と作法を体感しつつ、そしてまたその様子をオンラインでも同時に配信していきますので、どうかよろしくお願いいたします。

富士山と並び称される古来の霊峰、御嶽山は、日本列島のちょうど真ん中に独座する高峰です。

御嶽山をご神体とする御嶽信仰は、富士山の富士講と並び民衆の信仰を集めた霊山として知られ、現代でも御嶽信仰は脈々と息づいています。

オーストリア・ウィーンの作曲家・指揮者グスタフ・マーラーの言葉に、以下の文言が伝えられます。

「伝統とは灰を尊ぶことではなく、その炎を燃やし続けることである。」

御嶽山の自然に包まれ、この地は今もなお、本来の意味での「伝統」が息づき、それが人を作り、人を再生し、訪れる人が自分のふるさとや生き方を振り返り、生きる喜びや尊さをも感じさせてくれるという、本当の意味での「観光」が息づいている、日本の宝ともいえる地の一つではないかと思えます。

歴史と自然環境と、調和した人の営みが繋いできたもの、それこそが、日本の再生、未来に指針につなげるべき、大切なものと思います。

これからますます気候は荒れ、「想定外」、「観測史上最高」の気候状況が上塗りされてゆく時代です。

災害多発に歯止めがかからず、ますます災害の広域化、多発化におびえて暮らす時代となりました。

その背景には、山林の健全性の喪失、それに伴う大地の貯水性の減少が、災害あると考えます。

いますべきことは、健康な大地を育てながら、未来に引き継ぐ魅力を増してゆく、そしてそれが現代の活気と喜びと、そして生業や観光につなげてゆく方法は必ず見いだせることでしょう。

このプロジェクトが、未来への大きな扉を開いてゆく、そのスタートになることを願い、皆様のご参加、ご協力を願う次第でございます。

なお、スタートとなる8月10日のオンラインセミナー、お申し込みは以下のフォームより、お願いいたします。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf908TkN76WYtV4Asfy1fCqg2lhAzula7xCu_MtzloKHkmPEw/viewform