原子力発電に対する各国の姿勢に変化――肯定的な意見相次ぐ@第66回IAEA通常総会

2022年10月6日

先週オーストリア・ウィーンで開催された第66回IAEA総会では、過去最多の国々が、気候変動の緩和やエネルギーセキュリティ、持続可能な開発目標を達成するうえで、原子力が重要な役割を果たすことを公式に表明しました。IAEAによると、140の一般演説のうち、50の加盟国と27か国が加盟する欧州連合(EU)が、原子力に対して好意的な発言を行いました。すでに原子力発電を利用している国々だけでなく、アフリカなど原子力発電を持たない加盟国からも原子力が有する価値を認める肯定的な声が寄せられました。

IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長も総会冒頭の演説のなかで、「気候危機とエネルギー危機により、より多くの国が解決策の一部として原子力に目を向けるようになり、世界中の世論調査で原子力に対する支持が高まっている」「安全・確実で信頼できるエネルギー源としての原子力のユニークな属性は、世界のグリーン移行に不可欠である」と述べています。なおIAEAは11月、初の原子力発電所の建設が進むエジプトで開催される国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(United Nations Climate Change Conference, COP27)への参加に向けて準備を進めており、気候変動の緩和と適応における原子力の役割に焦点を当てたパビリオンを出展する予定です。

ここでは、IAEA総会での各国による一般演説から、自国の原子力発電開発の現状や今後の見通し、気候変動の緩和における原子力の役割などに触れた発言を一部抜粋し、ご紹介します。

※2022年10月4日現在のIAEAウェブ上の掲載情報に基づき、当協会が作成。

掲載順は、国名のアルファベット順。

©IAEA

中、仏、日、韓、米、露などの主要な原子力発電所運転国は各々の演説で、原子力は信頼性が高く低炭素のエネルギー源であると好意的に言及。現在、世界最多の原子炉18基を建設中の中国は「原子力は、クリーン・低炭素・安全で効率的な近代エネルギーシステムの構築にコミットしており、原子力エネルギーを炭素ピークとカーボンニュートラルの目標を達成するための重要な選択肢とみなしている」と述べている


<アルメニア>

原子力は、アルメニアのエネルギー部門の安定性と持続可能性を確保するための重要な要素である。したがって、原子力のさらなる開発は、アルメニア政府にとって引き続き重要な優先事項である。

2040年までのアルメニアのエネルギー部門の開発に向けた戦略的プログラムでは、原子力発電所の新規建設が想定されている。現在、我々はそのための予備的なフィージビリティ・スタディを進めている段階である。

<バングラデシュ>

建設中のルプール2号機 出典:Rosatom

原子力は、低炭素エネルギーへの移行において不可欠な役割を果たす。バングラデシュは、原子力を将来のエネルギーミックスの重要な構成要素とみなしている。最高の国際基準とIAEA基準に基づき、ルプールでVVER-1200技術による2基の建設に積極的に取り組んでいる。1号機の原子炉圧力容器は既に据付を完了し、2号機の原子炉圧力容器についても2022年10月、据付予定である。ルプール原子力発電所の建設は、完成に向け急ピッチで進められている。

<ブラジル>

原子力発電はエネルギーセキュリティと低炭素社会への移行を確実にするための戦略上、不可欠な要素である。

ブラジルの経済発展において、原子力発電の果たす役割はますます大きくなっていくであろう。長期エネルギー計画では、今後30年間に800~1,000万kW間で原子力発電が増加すると予測されている。

我々が優先して取り組むべきは、ブラジルで3番目の原子力発電所(アングラ3号機)が2026年までに運転開始をすること、そしてブラジル多目的原子炉の建設である。

ブラジルの新規建設に最大の課題は、プロジェクトの規模と複雑さ、そして安全性とセキュリティ要件に関連するものである。

小型モジュール炉(SMR)技術は、新規プロジェクトの有望な選択肢の一つであり、ブラジルは、関心のあるパートナーとの協力を通じて専門性を習得したいと考えている。

<ブルガリア>

ブルガリアにおける原子力発電は、高い技術力、生産効率、競争力のある価格、そして高いレベルの原子力安全、セキュリティ、放射線防護を維持しつつ、エネルギーミックスの主要な要素であり続けている。

ブルガリアは、原子力安全や原子力施設のセキュリティを原子力開発の主要な要素とみなしている。2021年、コズロドイ5、6号機は、国際的な安全基準を完全に遵守しながら運転した。2021年に行われたIAEA・SALTO(Safety Aspects of Long Term Operation)ピアレビュー・ミッションのなかで実証されたように、発電所は両機の安全な長期運転を確保するための活動を続けている。

<カナダ>

原子力の平和利用は、地球規模の課題に対処するための手段として、明らかに有望である。カナダは、温室効果ガスの排出削減や気候変動目標の達成、そして持続可能な開発目標を支援するうえで、原子力エネルギーとその技術が重要な役割を果たすことを認識している。我々はこれまで、国産のCANDU技術でこのような活動を続けてきた。そして今年、カナダ原子力公社(AEC)創立70周年を迎えられたことを嬉しく思っている。小型モジュール炉(SMR)などの先進技術は、エネルギーアクセスをさらに向上させ、世界経済の脱炭素化のための機会を引き出す可能性を秘めている。カナダは2020年にSMRアクションプランを発表し、排出量削減、重工業の脱炭素化、経済発展のためにSMRの開発、実証、導入を進めている。この技術を発展させるために、我々の進捗状況や継続的な取組について、喜んで共有したい。

<エストニア>

エストニア政府は、地球規模の気候変動との闘いに取り組んでおり、将来的に持続可能なエネルギー生産のためのあらゆる選択肢を検討する必要がある。

エストニア政府は2021年春、原子力ワーキンググループを設置し、2030年以降にエストニアで小型原子炉を利用する可能性を分析している。エストニアは、情報に基づいた透明性のある決定を行うため、IAEAや関連するステークホルダー、国際的なパートナーと緊密に協力している。我々は、2023年後半にエストニアでINIR(Integrated Nuclear Infrastructure Review)ミッションを実施するようIAEAに要請した。ミッション終了後、ワーキンググループは最終報告書を政府に提出する。

<フィンランド>

オルキルオト3号機 出典:TVO

フィンランドでは、原子力発電の利用に長い伝統がある。私は、原子力と再生可能エネルギーは決して相容れないものではないことを強調したい。

フィンランドのエネルギーミックスは、欧州で最も高い再生可能エネルギーの比率を誇っている国の一つである。フィンランドの電力部門は既に大部分が脱炭素化されており、CO2を排出しない電力の割合は現在87%である。

原子力発電はまた、安定供給のために重要である。オルキルオト3号機は現在、試験運転段階にある。

<ガーナ>

2022年7月28日、ナナ・アド・ダンクワ・アクフォ=アド大統領は、ガーナの原子力発電計画を推進するためのプログラム包括報告書(PCR)の内容を受け入れる宣言を行った。

<インド>

インドの原子炉は、長期連続運転の記録を更新している。またフリート方式で建設される最初の70万kWのPHWRであるカイガ5・6号機の掘削工事が開始された。

<イラン>

ブシェール1号機 出典:ASE

イラン・イスラム共和国は、持続可能な開発を達成するために、正義の推進とともに持続的な進歩を確保することを開発計画の目的としている。この観点から、「2040年を展望した原子力産業の包括的戦略文書」が国家レベルで承認された。この文書によると、原子力発電シェアは、総発電電力量の最低でも20%とすることが求められており、今後10年間で1,000万kWの原子力発電所を建設することが計画されている。

<日本>

2030年に向けて、従来のエネルギーミックスで示した原子力発電比率20%〜22%の実現に向け、安全性を最優先に原子力発電所の再稼働を進めていく。

日本としては今後、原子炉の再稼働、運転期間の延長、次世代革新炉の開発・建設に向け、関係者の総力を結集して議論を進めていく。

<カザフスタン>

2060年までにカーボンニュートラルを達成するという目標、そして電力不足が予想されるなか、カザフスタンは、安全で環境に優しい原子力発電の開発を総合的に検討している。

カザフスタンは、初号機の建設には時間と運転実績が証明された原子炉を考慮する。

同時に、小型モジュール炉の技術とその発電への応用についても、原子力関係者の間で引き続き議論されている。この10年間の技術的な躍進とは対照的に、小型モジュール炉を利用するという考えは、ますます合理的で、経済的にも実現可能だと思われる。

したがって、私は、カザフスタンも小型モジュール炉の技術に関心があり、将来的な原子力発電の発展のために有望な分野であると考えている。

<韓国>

韓国の新政権は、エネルギーミックスに占める原子力の割合を拡大し、カーボンニュートラルに向け原子力利用を促進するなど、新たなエネルギー政策を策定し、実施している。

その一環として、新ハンウル3、4号機の建設を再開し、既存原子炉の運転を継続するとともに、安全を最優先とする。

また、海外の原子力プロジェクトに参加し、原子力発電所の安全な設計・建設・運転に関する韓国の専門知識や、原子力技術の商業化に成功した経験を国際社会と共有する。

さらに、韓国は既存モデルであるSMARTを開発した経験に基づき、より先進的なSMRモデルを推進している。また、SMRの安全性検証のための規制の枠組や関連技術の確立も行っている。我々は、この努力における加盟国間の緊密な協力を期待する。

<パキスタン>

カラチ2、3号機 出典:CNNC

グローバルな問題にはグローバルな解決策が必要であり、緊密かつ無制限の協力と原子力へのアクセスは時代の要請である。パキスタンでは、温室効果ガスの排出を制限するための措置を講じている。パキスタンのエネルギーミックスは、一貫して見直されている。6基目の原子炉が運転開始し、エネルギーミックスにおける原子力シェアは約15%に増加した。カラチ3号機により今年、原子力発電設備容量は353万kWに増加した。今後もより多くの原子力を実現するために努力していく。

<ポーランド>

もしこれが通常のIAEA総会であれば、私はポーランドの原子力発電開発計画について、初号機が2033年に運転を開始し、そして2043年までに6基の原子炉が総エネルギー需要の最大15%を賄う計画について話したことだろう。

<ルーマニア>

SMR発電所の完成予想図 出典:米国貿易開発庁

ルーマニアは、小型モジュール炉(SMR)などの先進原子炉の原子力安全およびセキュリティに関連するIAEAの活動を支援している。1年前、ルーマニアの大統領は、米国初のSMRプロジェクトを建設する意向を表明した。この革新的なクリーン技術の導入により、ルーマニアは、気候変動対策とクリーンエネルギーへのアクセス推進に向けての一歩を踏み出した。本日、米国貿易開発庁の助成金を受けて実施した詳細調査に続き、IAEAの専門家チームが8月、ルーマニアのSMR建設予定地の選定プロセスに関する安全性レビューミッションを実施したことをお知らせする。ルーマニアの要請を受けて実施されたSEED(Site and External Events Design)レビュー・ミッションは、IAEAがSMRプロジェクトに関連して実施する初のものとなった。国営事業者であるニュークリアエレクトリカは、チェルナボーダ原子力発電所を25年間運転してきたように、最高の安全基準を遵守し、IAEAと緊密に協力しながらこのプロジェクト開発に引き続き取り組んでいく。

<ルワンダ>

ルワンダ政府は、クリーンエネルギー発電、食料・農業、健康、医薬品・バイオテクノロジー、産業、環境、地質・鉱業における原子力開発を加速させる重要な役割を果たすべく、ルワンダ原子力委員会を設立した。この委員会を通じて、政府は、科学技術のための原子力センターと小型モジュール炉の技術に基づく原子力発電所を開発するプロセスに着手した。ルワンダ政府は、SMR技術は新しく、そのほとんどが開発中であることを十分に認識している。

<スロバキア>

モホフチェ原子力発電所 出典:スロバキア電力

原子力は、国家のエネルギーセキュリティにおいて重要かつ不可欠な役割を果たすと同時に、脱炭素化と気候変動目標を推進し、ネットゼロを達成するための重要なツールであることを改めて証明している。したがって、安全かつ確実な原子力発電は、今後も戦略的優先事項であり、スロバキアのエネルギー政策の主な柱の1つである。スロバキアの原子力発電計画では、重要なマイルストーンが達成された。8月末に発給されたモホフチェ3号機の試運転認可により、事業者は正式に試運転プロセスを開始し、来年早々にもフル稼働する予定である。モホフチェ3号機の発電量は、スロバキアの総電力消費量の約13%をカバーし、電力ミックスに占める原子力の割合は65%まで増加する見込みである。スロバキアの電力供給は自給自足となる。

<南アフリカ>

原子力発電は、南アフリカのエネルギーミックスに不可欠な要素であり、エネルギー生産の脱炭素化と気候変動の影響の緩和に大きく貢献するものと認められている。クバーク原子力発電所は電力の4.2%を供給し、1984年の運転開始以来、安全運転を継続しているが、設計寿命である40年を迎えようとしている。南アフリカの公営電力会社Eskomは、クバークの運転期間をさらに20年延長するべく、規制当局に認可申請した。

<UAE>

バラカ3号機 出典:ENEC

先週、UAEはバラカ3号機が、同2号機の商業運転開始から15か月後に起動したことを発表した。バラカの歴史的なマイルストーンにより、UAEは安全性、セキュリティ、核不拡散の最高水準を維持し、地域最大の脱炭素の取組をリードしていく。4基がフル稼働すれば、560万kWの電力を生産、毎年2,100万トン以上の炭素排出を抑制することができ、UAEは2050年までにネットゼロを達成することに近づく。来年、UAEでCOP28が開催されることを楽しみにしている。

<英国>

世界の核不拡散体制に対する脅威にもかかわらず、先進的な原子力技術の機会を見失ってはならない。今年初め、英国のエネルギーセキュリティ戦略で、小型モジュール炉の開発を含め、2050年までに民生用原子力の導入を2,400万kWまで引き上げるという我々の意思を示したのはそのためである。一方、我々は廃止措置計画を改善し、最も危険な放射性廃棄物を安全かつ確実に処分するための地層処分施設を開発中である。

また、核融合エネルギーの実現に向けた世界的な取組もリードしている。最高の研究に投資することにより、2040年までにエネルギーを供給する核融合発電所のプロトタイプを建設し、核融合エネルギーの商業的実現可能性を実証する予定である。

さらに、ウランと核燃料の国際的なサプライチェーンは、これまで以上に重要である。英国は何十年にもわたり、自国の原子炉用および世界に輸出する燃料を製造してきた。我々は、この経験を基に、エネルギーセキュリティの未来のために、サプライチェーンと能力を確保し続ける。

<米国>

バイデン-ハリス政権は、我々の気候およびエネルギー安全保障は、民生用原子力発電のイノベーションと拡大とともに成長すると考えている。原子力は今日、カーボンフリーのベースロード電源の最も優れた供給源である。それは安全かつクリーンで、信頼性が高い。原子力技術の進歩は、化石燃料を使わずに増大する電力需要を満たすために、世界のエネルギー容量を増加させるのに役立ち、ネットゼロの世界への道筋を切り開く。そして、ロシアの化石燃料が人質となっている国々にとって、ロシアのサプライチェーンから解放された原子力発電は、その依存を断ち切るための解決策の一つとなる。

バイデン大統領のアジェンダが、次世代原子炉の開発と実証を強化するために、エネルギー省に数十億ドルを投資するのはこのためである。

来月、ワシントンD.C.で開催されるIAEA第5回原子力発電に関する国際閣僚会議で、私たちの取組を皆さんにお見せできることを楽しみにしている。

もちろん、民間原子力発電の拡大を奨励する一方で、米国は安全、セキュリティ、核不拡散の最高基準を維持する。

以上

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