TOPIC展覧会2023.04.06

大岩オスカール インタビュー 「新しい扉を開かないと新しいアイディアは出てこない」

出入国における水際対策も大幅に緩和され、いよいよ自由に「旅」ができる世界が戻ってきました。
ニューヨークを拠点に活動する大岩オスカールさんは、2021年、コロナ禍の街を描いた版画「隔離生活」シリーズを発表するなど、時代の空気をいち早く感じ取り、精力的に活躍し続けるアーティストです。4月21日から始まるアートフロントギャラリーでの個展「My Ring」を前に、展覧会について、これまでの作家活動について、オスカールさんにオンラインでインタビューを行いました。

28年間のアーティスト活動を再構成した《My Ring》

大岩オスカール

―個展について聞かせてください。

大岩 今回、展示の中心となる新作《My Ring》シリーズは、イギリスで油彩画を描きはじめた1995年頃から、この約28年間に描いてきた作品の中のモチーフを再構成した絵画作品です。ひとつひとつに川や道のような大きな流れが描かれていて、横並びに展示すると流れが繋がってみえます。本作は、自分の今までの道が輪になっているような絵を描きたいと思ったのがきっかけで制作しました。これまで日常生活の中からのインスピレーションを絵にしてきましたが、今回の作品には、過去のいろいろな作品が入っています。

―作品の中に描かれているモチーフについて教えてください。

オスカールさんは、1965年にブラジル・サンパウロに日系ブラジル人二世として生まれ、サンパウロ大学建築学部を卒業後、より広い活躍の場を求めて1991年に来日。約11年間にわたり日本を拠点に活動(イギリスでの約1年間の滞在も含む)。その後、2002年よりニューヨークへと拠点を移し制作活動を行ってこられました。様々な文化を根っこに持ちながら、世界中を自由に飛び回っていらっしゃる印象ですが、作品にもその影響はあると思いますか?

大岩 ブラジルの日系人の家庭で育った影響、25歳から11年間を過ごした日本の影響、そして今住んでいるNY——は国際的な都市なので一概には言えませんが、いろいろな国の影響は当然あって、自然とそれが知らない間に頭の中にはいってきて、モチーフになったり、作品だけでなくものの考え方に影響を与えたりしていると思います。
例えば、絵の中で、船のモチーフを繰り返して使う一番大きい理由は、1950年代、終戦後に自分の父親が日本からブラジルに移民として船で渡ったことにあります。今は船に乗ることが少なくなり、自分も瀬戸内以外で乗ることはあまりありませんが、船は昔の交通手段として面白いなといつも思っていて、それも船を描きたくなる理由ですね。

個展出品作品《Sumida River》2015 キャンバスに油彩111 x 227cm

―船と同様に川もよく描かれていますね。

大岩 パリでもロンドンでも東京でも、韓国や上海もそうですが、川の存在は都市の始まりに繋がっているので、面白いと思っています。また、今回の新作では川の中に金魚を描いています。これは、旧作の《ホテルオフィスシリーズ》から引用したモチーフです。僕はよく夏に日本に行くのですが、お祭りがあちこちであって、その印象から夏の金魚というキャラクターが出てきています。

《Hotel Office 2》2015 キャンバスに油彩137x178cm 個人蔵

―その他のモチーフもこれまでの作品と繋がるイメージが沢山ありますね。

大岩 これまでも様々な作品に何回も出てきているラーメン屋台は僕にとって「昭和」のモチーフです。白い透明な花か雲かわからないモチーフは、アメリカに来て描き始めた「Light Flowers」という一つのシリーズです。このほかにもホテルシリーズや、ツリーハウスシリーズがあったり、いろんなものが混ざって自分の世界が出来ていく――いろんなボキャブラリーを使って世界を構築していくという感じです。自分の古い絵をみるとその時の試行錯誤を思い出します。当時いろいろ考えてテクニックを編み出しました。その軌跡が今回新たな作品になっています。

個展出品作品《Light Flowers》2015,キャンバスに油彩76x103cm

新しいメディアへの挑戦

—今回中心となっているのは油彩画ですが、油彩画との出会いはいつ頃ですか?

大岩 僕がイギリスに1年ほど滞在していた30歳頃です。イギリスには古い美術館が沢山あって、良い18-19世紀のペインティングを沢山みることができました。また住居とは別にアトリエを持てる環境になった事や、隣の若いアーティストが油彩を描いていた事など、様々な影響があってその頃から油彩を描いています。
作品をつくるときは、水彩やドローイング、版画などいろいろなやり方も試して制作します。何をやりたいかによって、どのメディアでどう表現するかが決まってくるのです。例えば、「3Dプリンターを使ったら何ができるか?」と思って今回新たなアイディアを考えました。そしてそこには「時代」も影響します。コロナ禍のパンデミックの時は、家から出られずアトリエにも通えない状態になったので、大きいタブレットを使ったデジタルドローイングを制作し始めました。
その時々に何ができるかによって表現のかたちを変えていく。新しい扉を開かないと新しいアイディアは出てこないですよね。人間の頭ってなるべく同じことを繰り返して楽をしたいと考えているから、同じことを繰り返す方が失敗もないけど、発見もないといえますからね。

ロンドン時代、初期の油彩画。《Pinocchio》 1996, キャンバスに油彩, 227 x 222 cm

—新作の3Dプリンターを用いた作品について教えてください。

大岩 自分の描いた油彩画を光と3Dの技術を使って模型にしようとする試みです。「ローテク」のペインティングと最新型の3Dデジタルペインティングという、全然違う技法を使って、その二つの世界を一緒にしようと思いつきました。光に透過させて鑑賞する作品になります。3Dの厚いところは絵画の影に、3Dの薄いところは透過してみえるので絵画の明るい部分になります。単に立体的なレリーフにするのではなくて、絵画の明暗が3Dの物質的な厚みとリンクしている作品です。作品の底には自分が普段使っている絵具ののったパレットを使って小さな模型にしました。その真ん中に自分が立って自分の絵画世界をみつめているイメージです。

個展出品作品《Studio (Ring)》2023, 3Dプリント、木、絵具

パブリックアートの魅力

—様々な素材を自由に使い分けているのですね。ところで、アートフロントギャラリーとの最初の協働は1994年のファーレ立川のパブリックアートでしたね。

大岩 そうですね。ファーレ立川は自分にとって最初のパブリックアートのプロジェクトだったので嬉しかったですね。ドキドキしながら作品をつくりました。制作は埼玉の川口にある鋳鉄工場にお願いしました。


―最近のパブリックアートのプロジェクトでは2019年の上海都市空間芸術季(SUSAS)がありますね。
大岩 上海の仕事はとても面白かったですね。いろいろなチャレンジがあったんです。上海の仕事をやる前に中国の長い歴史や上海の割と新しい成り立ちを勉強しました。上海は200年ぐらいしか歴史のない街ですが、その中に複雑にアメリカや日本、フランスが入り込んでいる、そういったバックグラウンドを理解したうえで、港町や船というキーワードを考ました。難しいけれど良いチャレンジで、良い結果になったと自分では思っています。上海のような大きな仕事は是非これからもやってみたいですね。でっかいアートと都市計画だったりランドスケープデザインだったり、そういうちょっと曖昧なカテゴリーに魅力を感じます。もともと建築を出ているから大規模な何かをつくりたいという気持ちはあります。

《Time Shipper (Port of Shanghai)》2019 提供:2019上海都市空間芸術季 (SUSAS)

サンパウロ・ビエンナーレでの日本人アーティストとの出会い

―オスカールさんが育ったサンパウロも、複雑にいろいろな文化が流入している街ですね。学生の時はサンパウロ・ビエンナーレのお手伝いをしていたと聞きましたが、思い出はありますか?

大岩 サンパウロ・ビエンナーレには3回関わりました。日本語ができたので、1回目は事務局のアシスタントとして参加し、2回目と3回目は国際交流基金がアーティストの面倒をみるのを手伝いました。
その時に日本の作家と出会えたことが、アーティストになりたいという夢のドアになったのは事実ですね。その時は、川俣正さんの大工仕事の手伝いや、舟越桂さんと知り合ったり、吉澤美香さん、斎藤義重さん、横尾忠則さんの作品の手伝いをしました。インターネットも普及していない時代で、古い日本しか知らない移民の日系人ではない、同時代の日本人と初めて会った感覚でした。当時は19歳から20代前半だったので好奇心も旺盛で、アーティストになりたい、日本にも行きたいと思わせてくれましたね。また、日本だけでなく若いキース・へリングさんや、当時から大物だったキーファーさんなども来ていて、すごく勉強になりました。世界のアートと出会ったその経験が、アーティストとなる大きな原動力となった。それが思い出です。

23歳、大学生の時に制作した作品《Whale 1&2》1989、クラフト紙にスプレーと油彩 各2 x 22 m 第21回サンパウロ・ビエンナーレ出品作品(1991年)

台湾、そして市原でも

―世界のアートが集まるという意味では、今年は5月12日から開催されるアートフェア台北ダンダイ(Taipei Dangdai)にもアートフロントギャラリーから参加しますね。どのような作品を出品しますか?

大岩 油彩画のタブローを8点、隔離生活シリーズの版画を4点、新作は《シャドウキャット》と《ライトラビット》のドローイングを4点持って行く予定です。新作ドローイングのキャットは影、ウサギが光を表していて、光と闇のシンボルとしていつも描いているモチーフです。

大岩 また、台湾では今年の2月に開催された「台湾ランタンフェスティバル(台北)」にも参加していました。台湾も今年の干支は兎なのでライトラビットがぴったりだと思い、大きな兎のバルーンの様な作品をつくってメインストリートの地下鉄の駅に設置しました。月とも地球ともいえない抽象的な球体も一緒に浮かんでいるように展示し、メディアでも取り上げてもらいました。

《Light Rabbit (night view)》2023 ミクストメディア 6x10x7m 
台湾ランタンフェスティバル出品作品、台北、国父紀念館駅

その他、今後の活動について教えてください。今年の夏には千葉県の市原湖畔美術館で開催されるグループ展に参加されますね。市原湖畔美術館の長い回廊状の空間にオスカールさんの作品を展開したいという美術館の強い希望があったと聞いています。どのような作品が並ぶのでしょうか?

大岩 市原でも川がモチーフです。市原湖畔美術館の10周年記念展で地域を題材に「湖の秘密」という川が湖になったというテーマの展覧会になります。先日、川の上流、始まりの方から海に注ぎ込む工業地帯まで、市原市を流れる養老川を視察しました。そこから得られたインスピレーションを壁画の様な大きな作品にします。6mほどの大きな紙にドローイングを描いて展示するので、大迫力の作品になると思います。

養老川 視察風景 2023年2月

今年は一年を通じて様々な場所でオスカールさんとアートフロントギャラリーの協働が予定されています。ぜひ、旅をしながら巡ってみてはいかがでしょうか?

個展 大岩オスカール:My Ring   
会期:2023年4月21日(金)~5月28日(日)
   水~金 12:00―19:00 / 土日祝 11:00―17:00
休廊:月、火曜および、5月10日(水)-12日(金)
会場:アートフロントギャラリー

アーティストトーク
4月21日(金)18:00-19:00(20:00まで開廊)
参加費無料 

定員に達した為、トークイベントの受付を終了いたしました。
4/21-5/28の展覧会はどなたでもご覧いただけますので、何卒よろしくお願い申し上げます。(4/12追記)

 

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