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お金と仕事

カラオケ、姿を消した「歌本」 老舗店長とたどる「平成30年史」

カラオケの「平成30年史」データから見えた意外な変化
カラオケの「平成30年史」データから見えた意外な変化 出典: PIXTA

目次

<ヘイセイデータ>数字で振り返る平成経済

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平成ではやったモノの一つと言えばカラオケ。手軽に安く楽しめるとバブル崩壊後の不況期に人気が出ました。統計を調べると、1990年代半ばから1千万人ほど利用者は減っているものの、2000年代以降は5千万人弱で横ばい傾向です。そんな中、カラオケボックスが集まる東京・神田の駅前で、個人で20年以上経営しているカラオケ店があります。カラオケの生き字引とも言える老舗の店長と、平成のカラオケの移り変わりをたどりました。

カラオケ激戦区で24年営業

オフィスビルが集まる神田の駅の周りを歩くと、居酒屋に加えて、カラオケボックスの看板が目を引きます。「ビッグエコー」「カラオケ館」「まねきねこ」「歌広場」……調べると大手カラオケボックスが10店舗近くあり、さながらカラオケ激戦区です。

JR神田駅前にはカラオケボックスが立ち並ぶ
JR神田駅前にはカラオケボックスが立ち並ぶ 出典: 朝日新聞

そんな神田のガード下で、93年から営業しているのがカラオケボックス「YOTEN」です。今年12月で25年になります。店長の西川智正さんの父親がかつて同じ場所でフィリピンパブを運営していましたが、バブル崩壊で客が減って人件費が重荷になり、カラオケボックスに衣替えしました。

JR神田駅のガード下にあるカラオケボックス「YOTEN」
JR神田駅のガード下にあるカラオケボックス「YOTEN」 出典: 朝日新聞

オープン当初はカラオケ全盛期。午後2時過ぎになると高校生らで一気に部屋が埋まったと言います。「店の前で高校生が開店を待っていたこともありました。学校をさぼってくる子もいましたね」と西川さん。

料金は、2時間1ドリンク付きで500円。電車賃をかけても他店より割安だと口コミで評判が広がったそうです。夕方以降は、近くの専門学校生や女性会社員らが早い時間帯からグループでよく訪れていました。

YOTENを経営する西川智正さん
YOTENを経営する西川智正さん 出典: 朝日新聞

部屋いっぱいで断ることも

カラオケは安く楽しめると、景気が悪くなった90年代前半に人気を集めました。日経トレンディのヒット商品ランキングでも92年の3位に「カラオケルーム」がランクインしています。

全国カラオケ事業者協会によると、統計がある95年以降のカラオケ参加人口は、95年がピークで5850万人。その後はじわじわ減りましたが、90年代は5千万人台を維持していました。

YOTENの当時の売り上げは、いまの2、3倍多く、特に週末前の金曜日は午前2時、3時からも客が入ったといいます。「金曜日は深夜でも部屋がいっぱいでお断りすることもありました。それでも周りの居酒屋で部屋が空くまで待ってくださる方もいました」。

東京・銀座では女性会社員が昼休みに同僚と昼食を食べながらカラオケをする人も多かった=1993年9月
東京・銀座では女性会社員が昼休みに同僚と昼食を食べながらカラオケをする人も多かった=1993年9月 出典: 朝日新聞

それが00年頃から、客の利用方法に少しずつ変化が出てきたそうです。

「昔は1次会からカラオケという方もいましたが、ここ10年ぐらいは2次会からの利用が多い。会社の飲み会も減りました」と話します。

90年代後半に1日1組はいたという10人前後のグループ客が、いまは「1週間に2組ぐらい」。以前は店でアルバイトを1日3、4人雇っていましたが、いまは電話での予約受付から飲み物の提供、会計まで西川さん一人で行う日もあるそうです。

カラオケを利用する世代にはどんな変化があるのでしょうか。

カラオケ大手のシダックスの年代別利用実績によると、2008年に41.7%だった20代の割合が、17年には25.8%に減少。10代も同期間で18.7%から7.1%に減りました。

一方で、50代は4.9%から9.4%に増加。60代以上は同期間に8.8%から22.1%に増えています。若い世代の割合が大幅に減り、30代以上はいずれも増えています。

「顔の見える関係」大切に

カラオケ機器は平成に入ってどんどん進化しました。90年代前半に回線で音や映像のデータを配信する通信カラオケが始まり、それまで主流だったディスクが不要に。

00年代にはタッチパネルで選曲するリモコンの登場により、曲番号が書かれた冊子、いわゆる「歌本」も使われなくなりました。

1990年代半ばから主流になった通信カラオケ。レイザーディスク時代と比べコンパクトになった=1995年7月
1990年代半ばから主流になった通信カラオケ。レイザーディスク時代と比べコンパクトになった=1995年7月 出典: 朝日新聞

自分が歌った歌の採点、映像を見ながら振り付けが覚えられるコンテンツ、楽器とつなげてライブ感を味わえる機能、専用カメラで撮影した動画をウェブ上で共有する……技術の進歩とともにカラオケの楽しみ方は多様化しました。

カラオケ機器が進化し、大手チェーン店が競い合う厳しい環境の中、西川さんが大切にするのが、客との「顔の見える関係作り」です。

近くにオフィスがあった大企業の部長は、東京郊外の会社に転職した今でも月に数回、同僚を連れて店に通ってくれるといいます。そんな個人経営だからこそできる、アットホームな雰囲気作りやきめ細やかなサービスを大事にしている。ただ、高架橋の耐震補強工事などを理由にJRと千代田区から店の退去を求められていると言い、これからも営業が続けられるか不安も抱えています。西川さんは「これからも一度来たらもう一回行きたいとお客さんに思ってもらえる店作りを続けていきたい」と話します。

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