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 水素エンジン車は、水素を燃料とする内燃機関車である。カーボンニュートラル(炭素中立、CN)を実現する手段の1つとして、トヨタ自動車が市販化を表明した。電気自動車(EV)シフトを積極的に進めてきた欧州勢も、実は水素エンジン開発を急いでいる。

「水素エンジン車」の概要
「水素エンジン車」の概要
(出所:日経クロステック)

 水素エンジンは、ガソリンエンジンから燃料供給系と噴射系を変更し、水素を燃焼させることで動力を発生させるもの。微量のエンジンオイル燃焼分を除き、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。

トヨタが開発中の水素エンジンのイメージ
トヨタが開発中の水素エンジンのイメージ
(出所:トヨタ自動車)
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 既存のエンジン部品や生産設備などを活用できるのも特徴の1つ。これまでの技術資産を活用することで、同じく水素を使う燃料電池車(FCV)に比べて安価にしやすい。米BorgWarner(ボルグワーナー)は、「ガソリンエンジン車のコストと比較すると、FCVはシステムを刷新する必要があるため数倍と高いが、水素エンジン車なら1.2~1.3倍で済む」と試算した。

 大型商用車とも相性がよい。主流の過給直噴ディーゼルエンジンは、「ほぼ燃料噴射系の変更だけで水素エンジンに対応できる」(ある国内メーカーのエンジン技術者)という。

トヨタはレースを「実験場」に

 こうした点に期待を寄せる自動車メーカーの筆頭がトヨタである。同社は2022年6月、水素エンジン車を市販化する意向を表明した。同社は市販化に向けて、複数の試作車を開発済みだ。レースを「実験場」と位置付け、水素エンジン車の改良を続ける。

 主戦場としているのが「スーパー耐久シリーズ」だ。富士スピードウェイで開催された24時間耐久レースでは、2021年、2022年と2年連続で完走した。エンジンの基本構成は変えていないが、「インジェクターなど燃料供給系にとどまらず、さまざまな検討と評価を積み重ねてきた」(トヨタの開発担当者)という。

 2022年8月には、ベルギーで開催された世界ラリー選手権(WRC)の第9戦で、試験開発中の水素エンジン車「GRヤリス」がデモ走行した。水素エンジン車が海外の公道を走行するのは今回が初めてだ。

トヨタが開発した水素エンジン車
トヨタが開発した水素エンジン車
「GRヤリス」ベースの試作車で、2022年8月にベルギーの公道を走った。(写真:トヨタ自動車)
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 日産自動車やホンダは水素エンジンと距離を置くため、積極的にアピールするトヨタは浮いて見える。だが、世界に目を向けると景色は異なる。