黄泉比良坂

日本神話における生者と死者の世界の境界

黄泉比良坂(よもつひらさか)は、日本神話において生者の住む現世と死者の住む他界黄泉)との境目にあるとされる坂、または境界場所。

東出雲町の黄泉比良坂・伊賦夜坂

概要 編集

生者と死者の住む領域に境界場所があるとする神話は、三途の川などとも共通する思想であり、世界各地に見当たる。日本神話での黄泉比良坂は古墳の石造りや、を納めた石室に通じる道からの印象とも考えられている。

古事記』では上巻に2度登場し、出雲国の伊賦夜坂(いふやさか)がその地であるとする伝承がある[1]。「ひら」は古語で「崖」を意味するとされる[2]

祓いの観念と関連があるものともされる。

あらすじ 編集

男神・イザナギと一緒に国造りをしていた女神・イザナミカグツチを産んだことで亡くなった。悲しんだイザナギは彼女に会いに黄泉の国に向かう。イザナミに再会したイザナギが一緒に帰ってほしいと願うと、彼女は「黄泉の国の神々に相談してみるが、決して自分の姿を見ないでほしい」と言って去る。なかなか戻ってこないイザナミに痺れを切らしたイザナギは、約束を破っての歯に火をつけて暗闇を照らし、彼女の醜く腐った姿を見てしまう。約束を破られ怒ったイザナミは、鬼女の黄泉醜女(よもつしこめ。醜女は怪力のある女の意[2])を使って、逃げるイザナギを追いかけるが、黄泉醜女たちは彼が時間稼ぎとして投げた葡萄を食べるのに気を取られ、役に立たなかった。イザナミは代わりに雷神と鬼の軍団・黄泉軍を送りこむが、イザナギは何とか黄泉比良坂まで逃げのび、そこに生えていたの実を投げつけ、追手を退ける。最後にイザナミ自身が追いかけてきたが、イザナギは千引の岩(動かすのに千人力を必要とするような巨石)を黄泉比良坂に置いて道を塞ぐ。閉ざされたイザナミは怒って「愛しい人よ、こんなひどいことをするなら私は1日に1000の人間を殺すでしょう」と叫ぶ。これに対しイザナギは「愛しい人よ、それなら私は産屋を建てて1日に1500の子を産ませよう」と返して黄泉比良坂を後にし、2人は離縁した。イザナギは桃の木を讃え、意富加牟豆美命の名を与えた。

このほか、オオクニヌシ根の国訪問の話にも登場する。根堅洲国(根の国)のスサノオからさまざな試練をかけられたオオアナムチ(のちのオオクニヌシ)が愛するスセリビメと黄泉比良坂まで逃げ切るというもの。

ゆかりの場所 編集

黄泉比良坂があった場所として、1940年に「神蹟黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」の石碑が島根県松江市東出雲町揖屋に建立された。同地には、千引の岩とされる巨石も置いてある。近くには、イザナミを祀る揖夜神社もある。2010年日本映画瞬 またたき』では、亡くなった恋人に会いたいと願う主人公が訪ねる場所のロケ地として使われた[3]

江戸時代に書かれた『雲陽誌』によると、松江市岩坂の小麻加恵利坂にもイザナギが雷神に桃の実を投げた伝説がある[2]

ククリヒメ伝説 編集

黄泉比良坂について『日本書紀』の本文では言及がないが、注にあたる「一書」に、「泉平坂」(よもつひらさか)で言い争っていたイザナミとイザナギの仲をククリヒメがとりもった、という話が記されている。このことからククリヒメは縁結びや和合の神とされている。

脚注 編集

  1. ^ イザナキとイザナミ神話博しまね、2012
  2. ^ a b c ヨモツヒラサカを超えた神々森田喜久男、島根県立古代出雲歴史博物館、2012.10.20
  3. ^ 黄泉の国への入り口『瞬 またたき』公式サイト

関連項目 編集

ローマ・ギリシャの冥界との入り口

外部リンク 編集