主張

国産ワクチン承認 開発力高める布石とせよ

製薬大手の第一三共が開発した新型コロナウイルスのメッセンジャーRNAワクチンの製造・販売が2日、厚生労働省に承認された。日本企業が開発から手がけた初の国産ワクチンである。

欧米よりも2年以上遅れ、中国やインドにも先を越された。初期の株が対象なので、現時点ではオミクロン株にも対応していない。

それでもこれは、感染症対策上の大きな一歩である。

コロナ禍ではっきりしたのは日本のワクチン開発体制が脆弱(ぜいじゃく)なことだ。従来、官民とも巨額投資が必要な開発に慎重だったことがあだとなり、いざというとき機動的に動けなかった。

医薬品などの開発や供給を他国に委ねることには危うさがある。ワクチンやマスクを外交カードに使った中国の動きは記憶に新しい。感染症のパンデミック(世界的大流行)に対処するには、欧米からの供給を待つだけでなく、国産化を図ることが望ましい。

第一三共に限らず、ワクチンなどの開発・製造技術を確立し、発展させることが極めて重要だ。政府はこれを後押しする環境整備に全力を尽くすべきである。それが、次なるパンデミックに備える布石ともなる。

国産化にはもう一つ大きな意義がある。今後の医薬品開発に欠かせないメッセンジャーRNAの技術を得たことだ。この技術を他の疾患の治療などにも応用することが期待されよう。

第一三共のワクチンを7月末に了承した厚労省の専門部会は塩野義製薬の新型コロナワクチンも審議したが、有効性が明確でないとして継続審議となった。こちらは、メッセンジャーRNAとは異なる組み換えタンパクワクチンである。

複数の日本企業が多様なタイプのワクチンを作れるようにすることが、パンデミック時の対応力を上げることにつながる。塩野義製薬には、より説得力のある臨床試験データの提出に万全を期してもらいたい。

新型コロナワクチンはひところほどの需要はない。ただ、第一三共のワクチンには冷蔵保存できる利点もある。オミクロン株への対応を急ぎ、日本だけでなく、これを必要とする低・中所得国などへの供給も検討する必要がある。官民を挙げて、いかにグローバルヘルスに貢献できるかも問われよう。

会員限定記事会員サービス詳細