焦点:半導体業界が「台湾リスク」再考、ペロシ氏訪台後の緊張で

焦点:半導体業界が「台湾リスク」再考、ペロシ氏訪台後の緊張で
 8月のペロシ米下院議長の訪台を受けて中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、台湾周辺の海域に弾道ミサイルを発射するなど対抗姿勢を激化させたため、業界内では「台湾リスク」を再考する動きが広がっている。写真はイメージ。2月撮影(2022年 ロイター/Florence Lo)
[台北 7日 ロイター] - 半導体業界はこれまで、世界的な生産拠点である台湾が戦争に巻き込まれる可能性は低いと見なしていた。
しかし8月のペロシ米下院議長の訪台を受けて中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、台湾周辺の海域に弾道ミサイルを発射するなど対抗姿勢を激化させたため、業界内では「台湾リスク」を再考する動きが広がっている。
ロイターが半導体企業の幹部15人に取材したところ、中国が台湾を攻撃したり台湾へのアクセスを制限した場合を想定し、台湾以外の地域の生産能力を探ったり緊急時計画を策定するなど対応を検討している企業があることが分かった。
台湾では世界の最先端半導体の大半が生産されており、受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の本拠地だ。
経営幹部によると、台湾製の高性能半導体への依存からすぐに脱却するのは難しいが、業界が直面する地政学的な難題は増えている。
業界団体SEMI台湾のテリー・ツァオ代表は「今は誰もが事業継続計画を話題にしている」と述べた。「ごく一部の企業は最近になってようやく計画を立て始めた。聞くところによると、そのほとんどは外資系企業だ」という。
在台湾米商工会議所がペロシ氏訪台の翌週に行った調査では、40%が台湾での危機管理計画や事業継続計画を改訂中、もしくは改訂を予定していると回答した。
台湾で事業を展開する大手外資系企業の幹部は、顧客から事業継続計画について問い合わせを受けただけでなく、自社も台湾の供給業者に同じ質問をしたことがあると明かした。かつては事業継続計画に軍事行動を盛り込んだ企業はなかったが、今は想定に入っている。「政治的な環境が良くなるとは誰も思っていないだろう」と言う。
台湾は半導体産業にとってあまりにも重要なため、中国は武力制圧を控え、米国は台湾が中国の手に落ちるのを許さないという「シリコンの盾論」が一部にある。台湾政府はこうした見方を否定するが、経済を支える半導体産業の弱体化は回避したいと望んでいる。
ノイバーガー・バーマンのシニア投資アナリスト、セバスチャン・ホウ氏によると、米中通商紛争が始まった後、台湾では非半導体ハイテク企業の多くが米国や欧州の顧客から、中国集中を変えるよう求められ、製造拠点を台湾に戻したり東南アジアに移したりした。しかしペロシ氏訪台を受けて欧米の顧客は一転、台湾への集中過多を懸念しているという。
<不可欠な島>
台湾以外の国に工場を持つ外資系半導体メーカーの幹部は、ペロシ氏訪台後に選択肢を問い合わせてくる企業が増えたが、それが新規の受注につながったことはないと述べた。
最先端技術で作られた製品はTSMCに頼る以外になく、こうした顧客は旧式の技術で作られた半導体を求めているという。
経営幹部によると、米国などの国でコストが高くなっていることを考えると、台湾ほどの生産効率を確保するのは難しい。
台湾で事業展開する別の大手外資系半導体企業の幹部は、中国による今回の大規模軍事演習で台湾への将来的な投資のリスクについてより綿密な検討を迫られたが、撤退は考えていないという。「事業や財務面の条件の方が依然としてはるかに重要だ」
台湾の国家発展委員会のトップは先月、外国企業を含む大手半導体企業が今後5年間に台湾での先端技術での生産のために約2100億ドルを投資すると述べた。
<手に余る課題>
台湾の大手ハイテク企業の幹部は、中国の軍事演習後に地政学的なレポートを毎日作成し始めた。戦争リスクを懸念しているからというより、地政学上の問題を真剣に受け止めていることを示し、海外の顧客を安心させるのが狙いだ。「台湾はこうした事態に慣れているが、海外の経営陣なら心配する」という。
一方、台湾の別の半導体企業の幹部は、軍事的緊張のせいで海外の顧客から大きな圧力を受けたことはまだないと話した。「いくら責めたところで、こちらにできることはほとんどないのだと分かっている」と語った。
(Sarah Wu記者)

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