2021年10月06日
(聞き手:佐藤巴南 堤啓太)
全国各地を走るタクシー。実は大学を卒業したばかりの若いドライバーが増えているってご存じですか。採用拡大の理由は?タクシー業界の働き方は?「日本交通」の人事担当者に聞きました。
新卒でタクシー業界で働くイメージが正直あまりわかなくて…
入社したらまずドライバーになるんですか?
そうですよね。日本交通ではまず、タクシー乗務員からスタートします。
その後、乗務員の勤務などを管理する運行管理者や私のように新卒採用担当の人事などに配属される人もいます。
私は2018年入社で、乗務員として勤務したあと新卒採用を担当しています。
そうなんですね。給与はどうやって決まるんですか?
気になりますよね。基本給があったうえで、頑張った分だけ反映される「歩合給」を組み合わせています。
だから、働き方しだいでは月に50万円ぐらい稼げることもあるので、同年代の友人と比べれば高いのではないでしょうか。
休みはどうなっているんですか?タクシーっていつでも走っていますよね。
ドライバーの勤務の基本となるのが「隔日勤務」という働き方です。
1回の勤務時間がだいたい20時間と長い時間拘束されますが、勤務の翌日は20時間以上休む必要があるんです。
メリハリがつけられているんですね。
タクシーは人の命を預かる仕事なので、労働時間は厚生労働省によって厳格に管理されています。
加えて、国土交通省からは走行距離もしっかり規制されています。
知りませんでした!
しかも、勤務時間中に必ず合計3時間、休憩をとる必要もあります。
実は、東京の青山墓地の近くにはタクシーだけが駐車できる場所があって、みんなよくそこで仮眠をとっているんですよ。
そうなんですね!正直、サボっちゃったりしないんですか?
ふふふ。ちょっとサボりたいなっていう時は、あったりします(笑)
ただ、サボったら自分の給与に反映されてしまうし、自分の運行状況は一目でわかってしまいますからセルフマネージメントが必要な仕事ではありますよね。
女性の方も多いんですか?
男性女性の比率でいうとまだまだ男性が多いですが、2018年入社の私の同期は130人中30人ぐらいが女性です。
最近では新卒の女性社員の割合は3人に1人ぐらいにまで増えているんです。
全国のタクシードライバーの数(法人勤務)はおよそ26万人(※1)。しかし、女性はおよそ1万人(※2)。ただ、女性が約4600人だった平成5年と比べると倍増している。
(※1:国土交通省調べ ※2:全国ハイヤー・タクシー連合会調べ)
1つめのニュースに少子高齢化を選んだ理由を教えてください。
日本社会では少子高齢化が深刻なことはご存じだと思います。タクシー業界もこの問題に直面していて、ドライバーの平均年齢がとても高いんです。
どれくらいなんでしょうか。
全国平均だと59歳くらいです。
私たちはドライバーの担い手を確保するために平均年齢を引き下げていかなければいけないと考えています。
タクシーやバスもそうですが、車を運転する人がどんどんいなくなっていて、担い手が足りないんです。
そうなんですね。
さらに、60歳以上の人たちはあと10年20年で引退ですけど、デジタル化が進んでいく中で未来を構想する世代がいないんです。
そこで、私たちは2012年から初めて新卒採用を行うことにしました。
けど、当時「タクシー乗務員を新卒で採ります」っていっても6人しか人が集まらなかったんです。
えー!
翌年も6人しか集まらなくて、大卒でタクシーをやるっていうことがそもそも認知度としては全然なかった。
それがだんだん拡大して、2016年くらいに100人新卒が入社して、さらに増えて今年入社した人は338人までになりました。
そうなんですね。
これはタクシー業界全体で新卒採用し始めて、実際にタクシーを動かすことで若い人たちがどんどん活躍していったから。
給与体系もしっかりしていて、ワークライフバランスもとれるっていう情報が蓄積していったからじゃないかなと思います。
平均年齢がすごく低い営業所があると記事で読んだのですが。
よく調べられてますね。
去年の8月、コロナまっただ中ではあったんですけど、江戸川区に「葛西営業所」を新設しました。
車両台数で言うと70台前後のそんなに大きくはない営業所なんですけど、配属する人を全員新卒の社員で固めたんです。
すごいですね!
平均年齢がおよそ24歳のすごく若い営業所で、業界でも初の試みです。
若い人たちが集まったほうが、柔軟なアイディアが出ると期待があるんですか。
そうですね、頭はやっぱり柔らかいので、タクシーに何かを掛けあわせるようないろんなアイデアを出していこうという気概で作ったんです。
教育が行き届いている人たちばかりなので、実際に売り上げも高いんですよ。
驚きました。
これまではずっと同じやり方できましたが、コロナになった時に一気に変えなきゃいけなくなったんです。
夜は人がいないから、朝とか昼に走らせなきゃいけないだとか。
そういったところでも、そもそもタクシーの常識がない世代だからこそ、新卒で入ってくる子たちが試行錯誤、すごく真面目にやってくれて。
やっぱり作ってよかったなって思いますね。
2つ目のニュースは、「配車アプリ」ですね。
タクシー業界のここ20年の流れで一番転換になったのが配車アプリの登場だと思います。
配車アプリってどんなきっかけで始まったんですか。
今の会長が入社した2000年くらいから構想していましたが、具体的に動き出したのは2010年頃。
きっかけは「ピザの配達」だと聞いています。
え!
公園で友達とお花見をするときに誰かがスマホのアプリでピザの配達を呼んだんです。
位置情報を送れば公園でも今いる位置に呼べると知った時、「これタクシーで使えるじゃん」って開発が始まったと。
そうなんですね!
アプリ誕生以前には、2007年から携帯電話のインターネットを利用したタクシーの手配がありました。
ところがこれが非常に使いづらかったんです。
車何台使いますか?どこの場所に行きますか?っていうのを、いちいちボタンで全部選択しないといけない。
確かに使いづらそうです。
結局あまり使われなかったんですけど、モバイル端末でタクシーを呼びたいという潜在ニーズはあったんです。
そこからアプリを社内で開発して、2011年に日本で初めてリリースしました。
今度はボタン1つでタクシーが来るみたいな感じで、皆さんに便利に使っていただけるようになって成長してきました。
どれくらい使われているんですか?
今は注文の8割がアプリからなんですよ。
競争が激しくなっていると思うんですけど、どうやって差別化を図っているんですか。
「配車アプリ」
国内では日本交通の「JapanTaxi」とDeNAの「MOV」が統合し「GO」が誕生した。このほか、「DiDi」「Uber」「S.RIDE」など多くの配車アプリがリリースされている。
UI=ユーザーインターフェースはほとんど変わらないと思っています。地図にピンを立てるとタクシーが来るという点では。
差別化を図るなら結局、どれだけドライバーの接客が良いかという、UX=ユーザーエクスペリエンスです。
この配車アプリで、この会社を指定して呼んだ時に「乗務員さんめちゃくちゃいいよね」っていうのが、やっぱり最後は勝ると思うんですよね。
ちなみに、日本ってウーバーのような「ライドシェア」はどうして一般的じゃないんでしょうか?
「ライドシェア」
アメリカなどでは定着していているものの、日本では第2種免許を持たない一般の人が国の許可を得ないで自家用車で送迎をすることは、いわゆる「白タク」と呼ばれ、禁止されている。
安全の担保っていう部分では、不安が大きいんじゃないかなと思います。
タクシーはもちろん運行前には必ず毎日点検をしますし、車検も普通の車は2年に1回ですけど、タクシーは1年に1回しなきゃいけない。
当然、出庫する前には全員アルコールチェック。
なるほど。
一般の車だったらそこまでやらないわけですよね。
それぐらい事業主は皆さんの見えないところで努力もしているんですよ。
最後は「自動運転」ですが、どうして選んだのでしょうか。
学生によく聞かれます。
「自動運転の車が普及したらどうするんですか」って。
ドライバーがいらなくなるんじゃないか、ということですか。
はい。確かに自動運転はどうしたって絶対にくる流れです。
タクシー業界でも「JAPAN TAXI(ジャパンタクシー)」という車両が普及し始めていますが、これも自動運転の「レベル1」にあたる自動衝突防止機能がついています。
街中でかなり見かけます。
これから先どんどん運転という業務から乗務員の仕事が解放されていきます。
だったら、もっと人にしかできないサービスを提供していくようにシフトしていくというのが、タクシー業界の長期的な方針なんです。
どんなサービスでしょうか。
移動に付加価値をつけていって、ただ便利なだけじゃなくて「もう1回使いたいな」ってなるような顧客体験を届けるサービスを展開していこうとしています。
例えば「キッズタクシー」っていうのがあるんですが、塾とか習い事に行くお子様をタクシーでお預かりして送り迎えをするっていうサービスなんですよ。
へえ!
人を乗せるのはそもそも責任重大な仕事ですけど、お子さまをお預かりするのはさらに責任重大だし、そこは人でしかできないじゃないですか。
無人の車じゃどっか行っちゃうかもしれないし、その中で体調悪くなったりした時にちゃんと助けられる人がいたほうがいいですよね。
「サービスを提供する」っていうところに立てばいくらでもやれることはあるんですね。
まさにそうですね。
最後に、どういう人が今のタクシー業界に向いているとお考えですか。
いろんなことにチャレンジしたいっていう人だったり、常識に縛られるんじゃなくて、フラットに物事を考えられる人。
今日みたいな話を聞いた時に「めっちゃ可能性あるじゃん」って思ってくれるっていう人こそ来てほしいなと思ってますね。
ありがとうございました。
編集:高杉北斗 撮影:梶原龍
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