電力を取り巻く状況は深刻さを増している。電力不足は常態化し、薄氷を踏んでいる。発電設備は老朽化して続々と退出。ロシアによるウクライナ侵攻もあり、燃料調達の難易度は上がる一方だ。さらに2050年のカーボンニュートラルにも対応しなければならない。
 この難局に日本最大の発電事業者であるJERAは何を思い、どう動いているのか。東京電力出身で、JERA設立の立役者の1人でもある可児行夫副社長に聞いた。

可児副社長は東京電力と中部電力の火力発電・燃料調達事業の統合で中心的役割を果たした人物だ
可児副社長は東京電力と中部電力の火力発電・燃料調達事業の統合で中心的役割を果たした人物だ

――電力不足が危機的状況です。特に東日本、東京エリアが深刻です。理由の1つに火力発電所の退出があると言われています。日本の火力発電所の多くが高度経済成長期に建設されたもので、老朽化が進んでいます。なぜ火力発電所の新規投資は進まなかったのでしょうか。

可児氏 その理由を説明するに当たって、まずはJERAを設立した背景からお話します。

 2000年ごろから、世界で「原子力ルネサンス」がうたわれるようになりました。東京電力も原子力発電所の稼働率を高めることで、追加の設備投資なしに発電電力量を増やし、電気料金の値上げなしに収益が上がっていくというモデルを考えていました。ですから東電は2000年ごろから火力発電に大規模な投資をしていませんでした。この状況で2011年の東日本大震災を迎えたのです。

――火力投資は20年前から止まっていたのですか。そこに3.11福島第1原子力発電所事故が起きた。原発は停止を余儀なくされ、原子力ルネサンスの継続は不可能となったのですね。

可児氏 東日本大震災が起きた直後、その後に何が起きるのかをイメージしました。「このままだと東電はお金を借りることができず、火力発電に投資できない。既に10年もしっかりとした火力投資ができていないのに、さらに10年、15年と投資しなかったら発展途上国と同じ状況になってしまう」と。発展途上国と同じ状況とは、お金がないから設備投資できず、設備が経年劣化でボロボロになって停電が起きるという意味です。

 東京電力エリアは経済の中枢である首都圏をカバーしています。これまで東電がやってきたことを何らか手当てしないと、首都圏で停電が起きかねないという強い危機感から、JERAのような会社を設立し、「kW」(発電設備)と「kWh」(燃料)を確保しないといけないと考えたのです。

 もうかる会社を作ろうと考えていたのではありません。東電がいなくなった穴を日本として手当しないと、大変なことになると思ったのです。

――可児さんがJERA設立に奔走されたことは知っています。東電が首都圏で維持してきたkWとkWhを確保するためにJERAの設立が必要だった。こうしてJERAを設立し、東電に代わって火力発電投資を進めてきたというわけですね。

可児氏 設備産業は一定のピッチで更新していかなければなりません。JERAはこの4~5年で700万kW以上の発電所投資を実施しました。火力発電所の不足による電力不足は、新規の発電所が稼働する2025年に向けて、少しは改善していくと思います。ただ、日本全体で見れば、今後10年で増える新規の発電所は1000万kWほどしかありません。

――1000万kWの新規投資のうち、700万kWをJERAが1社で投資している。言い換えると、JERA以外の大手電力や発電事業者は、火力発電投資をほとんど決断できませんでした。この10年で再生可能エネルギーの導入や電力自由化が進みました。さらに日本も2050年のカーボンニュートラルを決めました。火力への投資判断は難しさを増しているのでは。

可児氏 (JERAが火力投資を決めた)4~5年前が最後の投資決断ポイントだったかもしれません。今から火力投資するかと言われれば、迷うのが普通です。火力発電所を作るには、環境アセスメントや建設にそれなりの時間がかかります。今から投資を決断すると、発電所が稼働するのは2030年ごろ。そこから2045年ごろまでに投資金額を回収していくことになるわけですが、その時にマーケットがどうなっているか分かりません。

 振り返れば、当社が700万kWの設備投資を決めたときは、金利も資材コストも今よりも安かった。そういう時期に国際入札を実施してEPC(設計・調達・建設)を発注したので、良いタイミングだったことは間違いありません。それでも当時、投資を決断するのは簡単ではありませんでした。

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