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中国が軍主導の宇宙開発を加速させている。宇宙を巡る国際規範作りの機運を損なわぬよう、中国は他国を脅かす行動を慎み、活動の透明性を高める必要がある。
中国の探査機が、月の土壌回収に成功した。米国、旧ソ連に次いで3か国目だ。将来の月の資源開発に有用なサンプルを入手したという。2030年の月面基地建設も目指している。
進出は月にとどまらない。共産党創設100年の今年、米国に続く火星探査を行うほか、22年をめどに独自の宇宙ステーションを建設する予定だ。有人火星探査や木星探査も計画している。
中国は、開発の目的について、「宇宙の平和利用に貢献するためだ」と強調しているが、額面通りには受け取れない。
先月改正された中国の国防法は、宇宙を「重大な安全保障分野」と明記し、領土や領海と並ぶ防衛領域に位置づけた。自国の利益や資源確保のために囲い込もうとする発想の表れではないか。
宇宙は人類共通の財産である。先に到達した者が領有権を確保し、既得権益化できる空間ではない。中国は肝に銘じるべきだ。
中国の宇宙開発の問題点は、軍の兵器開発と表裏一体となっていて実態が不透明なことにある。
現代の軍事技術は、作戦や指揮系統の通信などで衛星に頼る要素が大きい。中国は他国の衛星を破壊、無力化する「キラー衛星」の開発を進めている。宇宙での兵器開発で米国に先行し、軍事的劣勢を一気に覆す思惑だろう。
米中の宇宙での軍拡競争は地球全体の脅威となりかねない。平和利用に関するルール作りに向けて、国際社会が協調し、共通の世論を形成することが重要だ。
国家による宇宙空間や天体の領有、軍事利用を禁止した「宇宙条約」は、1967年の制定で、実効性は乏しい。
国連では先月、宇宙活動に国際法の適用などを求める決議が日英など164か国の賛成で採択された。日米英などの8か国は昨秋、宇宙の平和利用や宇宙政策の透明性確保などを盛り込んだ月探査の基本原則で合意している。
中国は平和利用を強調するのなら、こうした取り組みに積極的に参加し、各国の懸念の
技術開発が飛躍的に進む現状に見合った国際規範を作らねばならない。日本は独自の平和利用の活動を進めつつ、規範作りで主導的な役割を務めたい。