自分が触れる全ての物は誰かの手によってデザインされている…。
考えたことありますか?
世界で最も有名で認知力の高いフォントHelveticaについてのドキュメンタリーで監督デビューしたGary Hustwit監督が、最新作『Objectified』で焦点をあてたのは「物」つまり、インダストリアルデザインでした。
Objectifiedでは、世間で認められてはいるけど、やはり舞台裏が活躍場所の物をつくる人々の世界をのぞいています。
映画には伝説的に有名な工業デザイナー達がどしどし登場してます!
どんな世界なのでしょう?
長くなるレビューはジャンプ後に。映画の予告編もおいておきます。
「物」を考える…。
週末のフリーマーケットで買ってきたランプをちょっと見てください。
なんか、ウォーリーっぽいというか、Pixarのロゴのランプっぽいというか、どことなく愛嬌があるランプ。誰がデザインした物か知りたくなったので、裏にある「WINDSOR L-10」という唯一の手がかりをたよりに早速ググってみました。検索結果はゼロ。
けっこう古いランプ=インターネット世代前と予想してたので、まぁ情報がないのはしょうがないです。
でも、こうやって自分の物を誰がどんな風に作り出したかって考えるのは楽しいものです。
このフリマで15ドルだったランプのデザイナーはでてきませんけど、Objectifiedに登場するデザイナー達はすごいメンツです。
Appleのジョナサン・アイブさん、Smart Designの創設者Davin StowellさんとDan Formosaさん、インダストリアルデザインの伝説的人物ブラウン社のディーター・ラムスさん、初めにノートPCをデザインしたIDEOチームの人々、BMWの問題児(?)元チーフデザイナーのChris Bangleさん。日本からはauの携帯電話INFOBARのデザインで知られる深澤直人さん。その他にも多くのデザイナーがObjectifiedで物を語っています。またNew York TImes誌で毎週日曜日にConsumedというコラムを連載しているロブ・ウォーカーさんにも焦点をあてています。ロブ・ウォーカーさんは今自分がすでに持っている「もの」に感謝して満足しようと人々に呼びかけるキャンペーンに思いを馳せています。
でもやはり、この映画の1番の魅力と言えば、Helveticaの時と同様に、Hustwit監督自信がメインインタビュアーだということじゃないでしょうか。
Hustwit監督は、取材をする人々に話を聞き出すのが上手です。インタビューする時、ただの宣伝や意味のない話にならないように、デザインそのものについて話をきいていきます。美術系の学校にいかなかった人々でも、自由に発想しクオリティの高いものを完成できることができるということをきいていきます。
ジョナサン・アイブさんはMacBookのボディになる前のアルミの固まりを持ち上げて、デザイナー達がいかにデザインする物に取り憑かれたように魅了され、神経をとぎすまし(そしてすり減らし)、ボーダーラインぎりぎりにいるか、と話します。アイブさんはどこでどんな物を見る時でも、誰が、何のために、どういうふうにデザインしたんだろうと考えずにはいられないそうです。生きていく上でつきあっていく病気みたいなものだそうです、
また、物をデザインするとはただ完全なる欲望だと話す人もいます。
ロッキード・ラウンジをデザインしたマーク・ニューソンさんは、(ギズモード読者には、ヨーロッパの宇宙開発研究所EADSの宇宙キャビンのデザイナーと言った方がなじみがあるかもしれませんね。)ものをデザインすることをこう称します。「まだここに存在しないものがただ欲しいだけなんだ。」みなさん、どこか共感できるとこがあるんじゃないでしょうか?
Objectifiedでちょっと残念なところがあるとすればそれは、デザイナーについてまわる問題点へ切り込んでそれを観客へ提示するのを躊躇してしまったとこでしょうか。
グッドデザインとは時間とともにより良くそして長く使われるものだと定義される一方で、コマーシャルデザイナーの興味は消費者にどんどん新しい物を購入してもらうとこにあります。ここに矛盾が発生しています。この注目すべき問題点は残念ながら映画では触れられていません。
Helveticaではポストモダニズム対モダニズムの衝突が映画の根本に見え隠れして、エンターテイメントとしてだけでなく、デザイン定義を話す上でも多方面で重宝され評価されました。しかし、今回のObjectifiedでは観客へディスカッションを投げかけるようなポイントはなく、全てが定義されてしまっているように感じます。
個人的には、グッドデザイン対キャピタリズムの問題についてあまり触れられていなかったことに、ちょっとがっかりでした。
環境への配慮の視点からだけでなく、ソフトウェアの視点から、このデザインとキャピタリズムの問題はガジェットデザイン界でこれからの何10年かは最も注目すべきとこだと思うんですけど。
つまり、ソフトウェア自体が今までよりもずっとガジェットの核たる部分になってきてるんじゃないかってことです。
Grid Compass(世界で最初のノートPC)のデザインの一部を手がけたIDEOのBill Moggridgeさんもユーザーインターフェースはソフトウェアの方に重きを置いている、ハードのことはあんまり問題ではなくなっている、と話しています。面白いことにこれとは対象的に、深澤直人さんは実際に触れられる物とのインタラクションの影響力のほうが日本人にとっては文化的に大切だと話します。
(INFOBARは外身はステキなデザインなのに、なかのソフトウェアがイマイチだったのはそういうこと?)
この視点はデザイナーが懸念する資源や環境への問題とも深くかかわってると思うのですけど。
まぁ、この問題が映画の中で大きく扱われていないのが残念だってのは個人の感想です。
Helveticaと比べちゃったからですかね。
まとめますと、Helveticaがグラフィックデザイナー達にしたようなことを、今回のObjectifiedはインダストリアルデザイナー達にしてるってことです。
そしてこの映画を見ることできっと「物」のもっと楽しい深い一面が見えてくるんじゃないでしょうか。
アメリカで春に公開予定。日本での公開はまだ未定です。
では、最後にObjectifiedの予告編をお楽しみください。
Mark Wilson(原文/そうこ)
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