「クラウドという言葉は毎日のように目にする。だが、本当に使われているのか実態が分からない」。これがクラウドサービスに対するCIO(最高情報責任者)やシステム部長の本音だろう。

 「安く早くシステムを利用できる」とうたわれているものの、「本当に費用対効果が高いのか」「システム部門として今すぐ取り組むべきテーマなのか」「どのような心構えで利用すべきか」といった疑問の声は少なくない。

 そこで日経コンピュータと日経BPコンサルティングは、CIOやシステム部長など情報化戦略のキーパーソンを対象に定期的に実施している「景況・IT投資動向調査」にて、クラウドサービスの利用実態を調べた。調査期間は2010年9月16日~9月24日で、266社から有効回答を得た。

4社に1社がすでにクラウドサービスを利用

 今回の調査では、ユーザー企業自身が資産(サーバーやソフトライセンスなどの資産)を持たず、利用期間や利用料に応じた使用料をITベンダーに支払うサービスを「クラウドサービス」と定義した。代表例がSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である。

 クラウドサービスは、本当に利用されているのだろうか。利用実態や検討状況を聞いたところ、4社に1社(23.7%)が、何らかのクラウドサービスを「既に利用している」と回答した(図1)。「1年以内に利用する予定」(4.9%)を含めると、2011年10月には約3割の企業がクラウドサービスを利用することになりそうだ。

図1●クラウドサービスの利用状況
図1●クラウドサービスの利用状況

 「利用時期は未定だが検討している」(36.1%)まで含めると、全体の6割以上がクラウドサービスの利用に対して前向きな回答をしている。企業の情報化戦略を考える上で、クラウドサービスの利用は、“当たり前”の選択肢になりつつある。

SaaSはメールなどの情報共有向けサービスから浸透

 では、いったいどういった分野で利用されているのか。具体的な利用・検討状況をSaaSとPaaS/IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)それぞれで調べた。

 SaaSで最も利用・検討率が高かったのが、「情報共有(メールなど)」だ。「すでに利用している」が11.3%、「1年以内に利用予定」が2.6%、「利用時期は未定だが検討中」は27.8%である(図2)。

図2●SaaSの利用・検討状況
図2●SaaSの利用・検討状況

 「会計などの基幹系と違って、経営層や従業員の抵抗感が少ない」(製造業のシステム部長)、「安価なクラウドサービスが多く、費用対効果を得やすい」(サービス業のシステム部長)など、情報共有向けのシステムではクラウドサービスを利用・検討しやすいようだ。

 「営業支援・顧客管理」や「人事・給与」でクラウドサービスを利用・検討する割合は、他の分野に比べれば高い。ただし、「すでに利用している」割合は1割に満たない。業務プロセスが企業固有であるケースが多い「生産管理・物流管理」では、クラウドサービスを利用している企業の割合は1.9%だった。