荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『あのアーミン毛皮の貴婦人』 エルンスト・ルビッチ

2010-10-15 02:24:43 | 映画
 “映画のプリンス(byトリュフォー)” エルンスト・ルビッチの遺作『あのアーミン毛皮の貴婦人』(1948)を、WOWOWにて初見。わが居間の粗末なモニターでさえも、艶やかなテクニカラーが目にまぶしい。
 19世紀中葉、統一前のイタリアの小さな伯領。美しく誇り高い女伯爵(ベティ・グレイブル)と、占領者として駐留したハンガリー軍の若き将校(ダグラス・フェアバンクスJr.)。高慢な2人は、やがてコワモテの顔を徐々に解除させてゆく。武骨なハンガリー男の前でくるりと回ってみせる、女伯爵の衣裳の美しさ。彼女としては、いかにして占領軍を懐柔し、伯領の独立を回復させるのかという問題、そして、いかにして先約の伴侶とドロドロせずに手を切り、新たな愛を成就にもっていくかという問題、この2つをいっぺんに解決しようと、映画後半にはあの手この手で行動するようになる。今風に言えばツンデレというのか、こういうのは名手エルンスト・ルビッチならお手の物だ。

 しかしながら、ルビッチはこのミュージカル・コメディの撮影開始後、最初の8日間しかこの世にいなかった。一説によると、夜の情事のあとにバスルームに行き、そこで心臓発作に倒れたらしい。55歳の誕生日を祝った2日後のことである。
 あとを引き受けたのは、『ロイヤル・スキャンダル』(1945)ですでに病に倒れたルビッチの代役を経験ずみの、オットー・プレミンジャー。あの時には共同監督としてクレジットされたが、今回の遺作では、偉大なる先達に敬意と哀悼の意を表して、自分の名は消し、ルビッチの単独監督作としてクレジットすることを申し出た。またこれは、そういう措置をとったとしても、偉大な先達の名誉を汚さぬ出来であることに、プレミンジャーが自信を抱いていた証拠であろう。正直に言うと、実際には、あまりにもハイレベルであるルビッチのフィルモグラフィーにあって、本作はとうてい最上位に入るというわけにはいかないが、それでもやはりモノが違う。


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