映画『アヒルの子』
5月22日より、「ポレポレ東中野」で上映されている『アヒルの子』は、小野さやか監督が映画学校の卒業制作として制作した作品を土台にしたドキュメンタリー作品です。まるで、それは彼女自身の苦しみと家族とに向きあう、人生の軌跡そのもののようです。

5歳の時に1年間親元から離され預けられた「幸福会ヤマギシ会」の過去は、親に捨てられた経験として彼女に刻み込まれました。家族の前で本当の自分をひた隠しにし、いい子を演じてきたのです。性虐待や家族間での思いのすれ違い、 自分を苦しめるものをどうにか消化しようと、苦しみの元凶にひとつひとつぶち当たっていくさまは、ショックでもありました。でも最後にはきっと、観た者の心に勇気をくれると、信じています。

6月10日のレイトショーの後には、監督を務めた小野さやかさんと、性犯罪被害者の支援活動に携わる小林美佳さんとの対談が行われました。 その時のレポートの一部と、自分と向き合うこと、他者‐家族と向き合うこと、という観点から映画の紹介をさせていただきます。

これから映画をご覧になるかもしれない皆さん、またすでにご覧になった皆さんに、映画を通して感じる自分の中の“何か”と改めて向き合うきっかけとなれたら幸いです。
写真撮影:伊藤華織
映画の上映後、監督の小野さやかさんとのトークショーは、ゲストに、『性犯罪被害にあうということ』の著者の小林美佳さんを迎えて行われました。小林さんは、性犯罪被害にあったことを実名で公表して、多くのメディアに多く取り上げられて話題になりました。現在は、仕事をしながら、被害者支援活動しています。司会は、子ども虐待防止のオレンジリボンネット管理・編集人の箱崎幸恵さんが務めました。
箱 崎: 最初に小林さんは『アヒルの子』を観て、どのような感想を持ちましたか?
小 林: いい意味で衝撃でした。ここまで晒すということはなかなかできない。特に長兄のシーンは、映画の中では短いシーンだったけれど、性犯罪の加害者と直接向き合うということは本当にすごいこと。ただただ、“さやか、よく頑張った”と言いたいです。
小 野: 小林さんが映画を見て、長兄のところを受け止めてくれたことに感謝したいです。
卒業制作としてこの作品を制作したときには、今回の映画より17分短かった。
どうしても削らないといけない、学校の規定の時間がありました。
でもこのシーンははずせないと思いました。
小野さやか監督 ゲストの小林美佳さん
箱 崎: この映画は、家族というのが大きなテーマだと思います。小林さんも著書で家族との葛藤を書かれていて、家族によって傷つくということも表現されていますね。
小 野: 私は、自分の抱えてきた生きづらさ、傷ついたということを家族に受け入れてもらえないことが、二次被害となると思います。
小 林: 性犯罪にあったということは、その時からすでに「これは誰にも言ってはいけない」と植えつけられている。家族にも言えない。この映画の長兄の場面は、皆が二次被害と思っていることと向き合う場面だった。映画の中でさやかさんは長兄に対して「ゆるす」と言っていたけど、“ゆるさなくていいよ”って思った。その後のナレーションの「でもゆるせるわけがなかった」という言葉と私の感情が重なりました。
小 野: 映画の中で、「ゆるす」と言ってしまった。映画では触れていないけれど、実は長兄も小さい頃に大人からの性虐待があったのです。カメラがあったことで、「ゆるす」と言ったけれど、そうしないと次に進めない、だからゆるしたいと思えたのです。

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