(損保の)アクチュアリー2次試験について
しばらくぶりのエントリーですが、今日はいわき(@s_iwk)さんのブログのエントリー
http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/2-8042.html
を受けて私の方でも2次試験についてエントリーを立ててみることにしました。
本ブログは主に1次試験特に数学の受験者を対象とするもので、以下、既に全科目受かった方、あるいは今2次試験に挑戦されている方には当たり前のことになってしまうのかも知れないのですが、まだ2次試験の問題を見られたことのない方などには、何がしかの参考になれば幸いです。
なお、
(a)(私も)試験委員はやったことがないこと
(b)損保で2次試験を受けたので、以下損保に関する記述が中心となり、生保・年金には当てはまらない部分もあること
は御了解ください。
1.論述までの準備(知識面)
2次試験は上腕三頭筋が痛くなったりした記憶がある*1ほどの記述量があるのは確かで、どうしても「論述」に光があたってしまいがちですが、実は
論述以前に知識面を充実すべき
と考えます。
例えば、受験要領
(去年のものは
http://www.actuaries.jp/examin/H21exam/H21-all.pdf
です)
をご覧になると分かりますが、
昨年から
全体の6割程度が『アクチュアリーとしての実務を行う上で必要な専門的知識を有するかどうかを判定する問題(第I部)』
全体の4割程度が『アクチュアリーとしての実務を行う上で必要な専門的知識に加え問題解決能力を有するかどうかを判定する問題(第II部)』
で構成されていて、
「第I部、第II部のいずれかでも最低ライン(第I部・第II部ごとの満点の40%を基準として試験委員会が相当と認めた得点)に達していない場合は、不合格」
とされます。
このように第I部(知識問題)と第II部(論述問題)に分かれた出題は、少なくとも損保では前から行われていて*2、それが明文化されたに過ぎないと理解しています。(ただし、生保・年金はそうはなっていなかったと思います)
つまり、いくら論述問題ができても知識問題ができなければアウトということになります。もっとも、これはほとんどナンセンスな話で、以下で述べるように、知識の裏付けがあってはじめていい論述ができると考えます。
したがって、問題は
知識をどう身につけるのか
ということになります。
もちろん1次試験と同様に
「過去問題をみて出題されやすいところを探り、該当箇所を教科書で押さえる」
ことが基本になるのですが、2次試験ではそれだけでは必ずしも十分でありません。
それは、2次試験で必要とされる知識は日々進化・拡大しており(近年進化のスピードが更に加速)、過去問・教科書の記述が文字通り過去のものになり、ときには間違いにすらなる可能性もあるからです。
そのような意味で、日々の知識のアップデートが必要になってきます。当然(損害)保険会社に所属していればいろいろな情報が流れてくる(回覧等)のですが、それだけでは必ずしも十分とはいえず、例えば以下のようなサイトや書籍を能動的に訪問・購読することが望ましいと考えます。
(1)金融庁のサイト
金融庁のサイトで掲載されている、法規の情報及び次の法規集全般に言えることですが、
可能な限り「原典」に当たる
ようにされるとよいと考えます。
つまり、教科書に「○○法第△条」と書かれていてもそれで満足せず、以下のサイト等で都度ご自身で確かめることが望ましいと考えます。当然手間はかかりますが、そうした方が頭に残りやすいです。
(a)トップページ
(b)報道発表資料
(e)告示一覧
http://www.fsa.go.jp/common/law/kokuji.xls
(エクセル内で各告示のPDFにリンク)
(f)保険会社に係る検査マニュアル
(h)保険会社向けの総合的な監督指針
(j)同別紙様式集(PDF)
(k)新着情報配信サービス
(2)法規集
(a)保険関係法規集(byいわきさん)
http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/
法律で参照される府令がリンクで示されていたり、複雑な多重括弧が色分けされていたりと、至れり尽くせりです。告示がまとまっているのも貴重です。(今は上記の金融庁の「所管の法令等」で告示が見られるようになりましたが、その昔はそれもなくここが唯一のよりどころでした)
(b)法令データ提供システム(電子政府:e−gov)(上記(a)「保険関係法規集」にもある例)
○保険業法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07HO105.html
○保険業法施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07SE425.html
○保険業法施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08F03401000005.html
(c)法令データ提供システム(電子政府:e−gov)(上記(a)「保険関係法規集」にない例)
○地震保険に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S41/S41HO073.html
○地震保険に関する法律施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S41/S41SE164.html
○地震保険に関する法律施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S41/S41F03401000035.html
○租税特別措置法(第57条の5:保険会社等の異常危険準備金)*3
http://is.gd/cwMNg
○租税特別措置法施行令(第33条の5:保険会社等の異常危険準備金)*4
http://is.gd/cwMOm
(d)国税庁長官通達(法令解釈通達 法人税関係 個別通達)
○平成15年12月19日付課法2-24
「損害保険会社の所得計算等に関する法人税の取扱いについて (法令解釈通達)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hojin/031219/01.htm
(3)ニュース
余談ですが、官報以外の記載内容(特に記者の「私見」が入っている部分)は必ずしも正確ではないので要注意です。
(a)官報(過去30日分閲覧・ダウンロード可能です)
(c)Yahoo!ニュース 保険業界
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/insurance_companies/
(d)保険毎日新聞
(見出しとトップ1記事だけですが…)
http://www.homai.co.jp/
(4)書籍
(a)「損害保険会計と決算」(損保総研)
http://www.sonposoken.or.jp/content/view/full/3064
損保2(損保会計)受験者必携の書籍のみならず合格後も役立つ書籍*5です。
(毎年更新されるため、教科書の"outdatedness"を補完してくれます)
(5)海外の情報
余裕があれば、海外の関連サイト
(例えばソルベンシーIIなら
CEIOPS(Committee of European Insurance and Occupational Pensions Supervisors)
http://www.ceiops.org/ )
なども適宜当たるとより効果的です。
ただし、当然ながら膨大な英文と格闘しなければならないですし、これまで述べた国内の関連サイト・書籍だけでも十分に「おなかいっぱい」になると思います。
費用対効果の大きい方法として、まずは、Twitter上で、Yosuke Fujisawa(@actuaryjp)さんをフォローされることをお勧めします。
(6)昔との比較
前記のとおり、必要とされる知識量は、昔と比べてどんどん増しているのですが、
(a)インターネットの発達によって昔より楽に情報を得られるようになったこと
(b)人目にほとんど触れることのない「文献」からの出題がほとんどなくなったこと
は昔より有利な点として挙げられます。*6
2.論述問題について
まず、いわきさんも述べられていますが
アクチュアリージャーナル第66号(2008年8月)の
「第2次試験に向けた勉強を進める上での留意事項」(以下「留意事項」)
は必読です。*1
(2010/5/31 21:13 JST 追記
まいすさんから
(1)当該留意事項がアクチュアリー会のサイトに残っている
http://www.actuaries.jp/examin/guide.pdf
こと
(2)説明会の資料が会員限定サイトに残っている
(事務局からのお知らせ→お知らせ一覧→第2次試験受験者向け説明会資料(2008年11月12日))
とのご指摘
http://twitter.com/maisudai/status/15102456389
がありましたので記しておきます。)
以下、留意事項といわきさんのブログで触れられていない点について主に述べます。
(1)論述の時間と得点について
しばしば忘れがちなこととして論述にかけられる時間の問題があります。
御存じのとおり、試験時間は3時間ですが、上記のとおり知識問題(といっても単なる語句の穴埋めだけではなく、計算や短文記述などバラエティーに富む)もあるので、論述にかけられる時間はせいぜい70〜80分がいいところです。
この時間内で
題意の把握→論理の構成→実際の書き込み→推敲
まで行わなければならず、実際に鉛筆(シャープペンシル含む。以下同じ)をつかって書ける時間はせいぜい1時間がいいところです。
一旦書き始めたら大きく構成を変更できないのはもちろんですが、そもそも、
これだけの短時間で真に斬新なアイデアを生み出すことが極めて困難
です。
つまり、ごく穏当な論述になってしまうことが少なくありません(あまりに独自のものをと考え過ぎると、独りよがりの論述になり試験官の心証を大いに損ねる危険性が極めて高いです)。
よくできる方は別として、論述では穏当な内容でせいぜい5割(20点/40点)程度で、そのかわり知識問題では7割(42点/60点)以上得点し、合計で60点を少し上回るというのが、合格者の平均的な姿ではないかと考えます。(もちろん「普通」といってもそれほど簡単ではないのですが…)
(2)「論」を述べる前に
論述問題は、
「評論」が求められているわけではない
ことに注意する必要があります。
ブログ(書籍も?)ではときどき、保険に関してあまり造詣が深くないと思しき方が、十分な知識の裏付けのない「評論」を展開されているのを見かけます。
これと同じことをアクチュアリー試験でやるのはまずいと考えます。
つまり、正確でできれば豊富な*2な知識の裏付けを試験官に示してから論を進めるべきだし、当事者としてその問題に取り組むつもりで(実現可能な)「解」を提示する必要があると考えます。
いわきさんが上記のブログエントリーで述べられている
「ソルベンシーについての所見を問う問題」
を例にとると、もちろん「現行ソルベンシー・マージン比率の計算方法について長々と書かれ」るのは論外ですが、かといってそういう知識を飛ばして、いきなり「(日本の)ソルベンシー・マージンについてはかくあるべし…」といった実現性の乏しい「評論」を並びたてられても試験官は困惑すると考えます。
この問題だと、例えば
(a)知識面
○ソルベンシーとは何か
○日本におけるソルベンシー・マージン規制制定(平成8年の保険業法改正)の経緯
○現行ソルベンシー・マージン基準の概要と課題
○ソルベンシー・マージン規制の改正の概要
○欧州のソルベンシーIIの概要
等を踏まえた(書いた)上で、
(3)論述の具体的な対策
(a)論述テーマの予想と論点の整理
知識の習得の過程において、最近の法令の改正動向その他については自ずとキャッチしているはずなので、論述テーマについては、ある程度予想がつくと思います。
それら予想されたテーマについて自分で論点を考えてみて実際に論述してみることをお勧めします。
もちろん上記のように前提となる知識を踏まえなければならないため、それなりに準備が必要になります。
例えば上記のソルベンシーについては本番でも出題が予測される内容の一つで、それぞれの項目を列挙するのは簡単ですが、細かい中身については、いろいろと調べる必要が出てくると思います。
(これについては、例えば
いわきさんのブログの別のエントリー
http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-ad08.html
とそこで示されている各リンクの記事等が参考になると思います。
)
(b)論点の複数人での検討
以上のような項目の検討については、可能であれば複数の受験生で行うとよいと思います。私も他社の人とそういう論点検討を行い、自分の思ってもみなかった論点を気づかされたことが多々ありました。
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100414
でも述べましたが、受験者同士のネットワーク形成が大事になってくると思います。
(c)実際に書いてみる練習
以上の個人(&グループでの)論点整理を踏まえ、答案を自分の手で書いてみる(PCのキーボードを打鍵するのではなく)必要があります。
上記のようにいくら出題内容が予測でき、論点が整理できたとしても70〜80分で書ける量は限られている(模範解答を「そのまま」書くと絶対に時間が足りない!)ので、どこまでの内容が書けるのかを自分の手で把握することが必要だと考えます。
また、(自分も含めてですが…)普段鉛筆で文字を書く機会はほとんどなくなっていると思うので、忘れている漢字等を思い出すいい機会でもあります。
(d)その他
表記面についてはいわきさんのブログでも述べられていますが、その他、九州大学の田口雄一郎先生が書かれている
「採点について」
http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~taguchi/nihongo/gakusei/grading.html
等も参考にされるとよいと思います
3.まとめ
いろいろと書いてしまいましたが、
2次試験については、毎年一定割合(損保だと、概ね2割前後)の合格者数が出ているのも確か
です(1次試験の一部の科目のように、この比率が年によって4割になったり1割未満になったりはしない)。
いわきさんのブログの記述、留意事項及び本稿の内容等を踏まえた上で、
諦めずに取り組めば必ず道は拓ける
と思います。
受験者の皆様が、1次試験のみならず2次試験も無事クリアされることをお祈りいたします。
以上