2011.05.06
# 雑誌

「レベル7」ニッポンの選択 これでも原発ですか

40人の原子力専門家が明かす「フクシマの真実」
〔PHOTO〕gettyimages

 いつの間にか、国の基準に定められた年間放水量の2万倍もの汚染水が海に流れ出ていた。誰も中で何が起きているのか分からない。そんな「怪物」と、私たちはいつまで付き合い続けるのか---。

工程表を出せる状態ではない

 フクシマはいま政府や東電が発表しているように収束に向かいつつあるのだろうか。

「この工程表は当然のことながら、いま入手できるデータに基づいてできたものでしょう。しかしながら、原子炉建屋と原子炉内部が実際にはどうなっているか、誰もわかっていない。たとえば燃料棒がどのくらい損傷しているのか、それをわれわれは炉心に近づくことによってしか知ることができないのです。そのことが可能になるまでにはまだ時間が必要ですから、このプランには予想されているより長い時間がかかると考えています」

 東京電力から発表された福島第一原発事故収束への工程表について、ハーバード大学政治大学院特別研究員で前IAEA(国際原子力機関)事務次長のオリ・ハイノネン氏はこう評した。核不拡散の研究で世界的に知られているアメリカの物理学者フェレンク・ダルノキーヴェレス氏も懸念を表明する。

「工程表通りに行うことは難しいと思います。これに無理に合わせようとすると、作業員の安全が犠牲になるかもしれない。これを実行するには相当頭が切れる、クリエイティブなリーダーが求められます。そのためには東電は会社を超えて人材を確保すべきでしょう」

 それくらい、事故収束への道は険しいものだと専門家たちは考えているのだ。「冷却システムをつくるのは1ヵ月くらいでできるかもしれない」と話す東京工業大学原子炉工学研究所助教の澤田哲生氏は、2号機のサプレッションチェンバー(圧力抑制室)の破損が大きな問題だと考えている。

「ロボットで補修なんてほとんどできませんから、結局は人力か遠隔操作で土木作業をやることになります。どういう場所がどの程度破損しているのか、どの程度の作業が必要なのか、いまロボットを使って確認しようとしていますが、あそこは地下になるので、ほとんど見ることができていない。技術的にどう乗り越えるか、ここに大きな壁があります」

 京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は、原子炉格納容器を水で満たして、圧力容器ごと燃料棒を水没させる「水棺」という方法は失敗するだろうと話す。

「2号機だけでなく、1号機と3号機も格納容器が壊れていますから、水を入れても漏れてしまいます」

 だが近畿大学原子力研究所の伊藤哲夫所長は、そもそも「まだ工程表を出せるような状況になっていない」と批判する。

「いま一進一退の状態で、まだ溜まり水も抜けないし、どういう風に冷却するかも定まっていない。そういう中で3ヵ月、6~9ヵ月と期間を決めていく時点で、私はこの工程表を信用できません。きっと今後、この予定に修正が入ってくると思います。こういうものはもう少し先が見えてから出すべきだったのではないでしょうか。

 これが『この期間で絶対に収束させてみせる』という東電の決意の表れなら、それでいいんです。でも発表されたのは日曜日(4月17日)で、クリントン米国務長官来日当日。菅総理がいい格好をしようと、東電をつついて出させたのではと勘ぐりを入れたくなるようなタイミングでした」

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