伝説の治療器「MWO」を考案したジョルジュ・ラコブスキー日曜日の歴史探検

ジョルジュ・ラコブスキーが考案した「MWO」は、生きている細胞と電気回路の類似性に着目した伝説の治療器です。病気の原因は、外部からやってきた細菌が強烈な放射能を浴びせて、細胞の振動を狂わせるために起こるという大胆な仮説を立てた彼の考えに迫ります。

» 2009年12月06日 00時00分 公開
[前島梓,ITmedia]
ジョルジュ・ラコブスキー 右から2人目がジョルジュ・ラコブスキー。手前に座っている人物の両側にはリングが確認できます(出典:toolsforhealing.com)

 1896年にロシアで生まれたジョルジュ・ラコブスキーは、その後フランス市民となり、第一次世界大戦のときにはフランスのためにロシアと交渉、フランスで不足していたメチルアルコールを確保するなど、その尽力が認められ、名誉あるレジオンドヌール勲章を受章した人物です。

 ラコブスキーは生命と生物のことを考え続けた科学者であったということができますが、1924年に彼がスペインの無線局にいたときに目撃した、ある印象的な出来事が彼の科学者人生に大きく影響を与えました。

 彼はここで、無線が送信されている間、鳩舎から出たハトが方向を見失ってグルグル旋回し、送信が終わると何事もなかったかのように巣に戻っていくのを目の当たりにし、無線の高周波がハトに何らかの影響を与えているに違いないと考えます。

 ハト以外の生物も詳しく観察した結果、ラコブスキーは、生きている細胞と電気回路の類似性に着目します。彼は、細胞核の中にある染色体の基本構造である「染色糸」が一種の電気回路であり、それは高周波で振動してさまざまな波長の放射線を出していると考えました。そして、さまざまな病気の原因は、本来正常に振動している健康な細胞に対し、外部からやってきた細菌が強烈な放射能を浴びせて、細胞の振動を狂わせるために起こるのだという大胆な仮説を立てます。

 ラコブスキーはこの仮説を実証するため、毎秒1億5000万回の振動に相当する、波長約2メートルの電磁波を出す装置「ラジオ・セリュロ・オシレーター(無線細胞振動子)」を考案します。人工的に腫瘍(しゅよう)を作ったゼラニウムをこの装置で治療する実験を行うと、装置の放射線にさらされたゼラニウムの腫瘍(しゅよう)は、2週間あまりで縮みはじめ、ついには完全に消えたといいます。

 さらに研究を続けたラコブスキーは、1931年にラジオ・セリュロ・オシレーターの改良版である「マルチウェーブオシレーター(Multiple Wave Oscillator:MWO)」を考案。この装置は、2つの同心円状のリング(振動子)を150センチほど離して向かい合わせに配置したもので、2つのリングの間に立った患者に対して、リングから波長の異なるさまざまな高周波を同時に放射する仕組みでした。

Multiple Wave Oscillator(出典:Altered States)

 伝えられているところによるとMWOの治療効果は顕著で、基底細胞ガンのほか、中耳炎、前立腺肥大、あるいはぜんそくや不眠症、神経痛などの治療にMWOが効果的であったことが報じられています。こうしてラコブスキーのMWOは欧州で広く使用されるようになっていきました。

 第二次世界大戦でフランスがドイツに占領されると、ラコブスキーはフランスを去って米国に亡命します。当時、彼のMWOは米国・ニューヨークの大病院でも実験的に使用されていましたが、ラコブスキーが1942年に亡くなると、MWOは急速に病院から姿を消していきます。MWOのような電子治療が禁止されていたこともありますが、何より科学的根拠がないとみなされたようです。米国特許も取得したMWOですが、こうして表舞台から姿を消していきました。

 1960年代に入ると、米国の技術者であるボブ・ベックが、10年以上も放置されていたMWO(テスラコイルを使った改良版MWOとされています)を修理し、その治療効果を検証します。ここでもMWOは症状の緩和などの効果を示し、MWOは再びちょっとしたブームを巻き起こします。

 しかし、ラコブスキーのMWOは今日でも一部の科学者を除いてさほど見向きもされていません。ラコブスキーが作り上げたMWOは微細な調整が求められていたようで、再現性が低いことも影響しているのかもしれません。その扱われ方をみると、分野は違いますが、丸山ワクチンと同じような扱いであるとみることもできます。

 ラコブスキーが発明した「伝説の治療器」MWOは、科学が彼の理論に追いついたとき、再びブームを巻き起こすのかもしれません。

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